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プロダクションノート|3D彼女リアルガール

企画発端と脚本化

15年9月に公開され大ヒットを記録した映画『ヒロイン失格』。プロデューサーの伊藤卓哉はSNSで観客の反応をリサーチする中で、コミュニケーションに関する悩みを持つ若者が多いという実感を得た。「当たり前のことかもしれませんが高校生みんながキラキラしているわけではなくて、今はSNSをはじめ様々なツールがある分、関係性がややこしくなったり、気を遣ったりしている部分があるんじゃないかと思ったんです」。映画『ヒロイン失格』チームで新作を撮るなら、コミュニケーションをキーワードに据えた作品を作りたい。そんな思いを抱いたときに思い浮かんだのが、以前読んだ那波マオ原作のコミック『3D彼女 リアルガール』だった。「美女とオタクという対照的とも思える登場人物たちですが、実は周囲とうまくコミュニケーションがとれないという同じ悩みを抱えている物語だと思いました。少女コミックの中でもオタクが主人公というのは異色ですし、彼が愛するキャラクター・えぞみちの存在も面白い。似たような作品を縮小再生産するよりも挑戦しがいのある原作だと思いました」。早速、チームである宇田川寧プロデューサーと英勉監督と企画開発を始めた。脚本には、高野水登を起用。当時はまだ大学を卒業したばかりの駆け出しの脚本家だったが、つっつんに似た感性を持つ若手として抜擢した(この後、ドラマ『賭ケグルイ』でも英監督と共同で脚本を手がけている)。まだこの時点では原作が連載中だったためラストシーンに向けて試行錯誤が繰り返され、プロットも含めると実に20稿以上を数えることになった。「コメディはテンポ感が大事なので最初の段階から英監督も入り、脚本に関するアイデア出しをしています。高野さんがつっつんに感情移入しすぎたせいか、これはつっつんではなく自分の話では?という内容に傾いてきたこともあり(笑)、原作の肝になるエピソードを洗い直したりしながら、最終的には英監督にも脚本を共同で書いてもらい、現在の完成形にこぎつけました」。

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ハロウィン

学校を舞台にした少女漫画原作の映画の中に登場する定番行事といえば夏祭り、学園祭、修学旅行などが主流だが、『3D彼女』では映画オリジナルの舞台設定としてハロウィンをフィーチャーしている。「少女漫画原作の映画の中でここまで本格的にハロウィンをとりあげたのは、『3D彼女』がおそらく初ではないでしょうか。妄想を広げるオタク的な世界観とも相性がいいと思いましたし、現実とファンタジーが融合した世界になっています」。仮装については実際のハロウィンというよりも、メキシコで盛大に行われる祝祭“死者の日”をイメージ。英監督は『高校デビュー』で大勢のサンタが踊る架空のお祭りのシーンを撮っており、今回もダンスを大胆に取り入れている。ダンスの振付は数々のCMやPVを手がけ世界的に活躍する「振付稼業air:man」が担当。音楽に関しては主要な振付のリズムだけを先に作り、撮影後に全体を作曲するという手法がとられた。ハロウィンのシーンはプロのダンサー三十数人を含む一日あたり約200人のエキストラで3日間かけて撮影が行われ、その膨大な数の骸骨メイクをするために集まったのは、40人近いヘアメイクのスタッフたち。真夏の長時間の撮影でキャスト、ダンサー、エキストラ、スタッフたちにとってハードな3日間となったが、そのかいあって見応えのある幻想的なシーンが完成した。

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西野カナ

映画『ヒロイン失格』の「トリセツ」に続いて主題歌を書き下ろしたのは西野カナ。デビュー10周年という多忙なメモリアルイヤーを迎えているだけに、「前作でのご縁がありつつも、ダメ元でお願いしたというのが、本当のところです。でも映画のラッシュを観た西野さんが大変気に入ってくれて、作品の世界観に寄り添った楽曲を書き下ろしてくれました。西野さんがストーリーテラーとなって色葉とつっつんの物語を語るような歌詞で、デモを聞いたスタッフ一同、とても感動してしまいました」。いつもエンドロールまで見応えのある英監督作品だけに、今回も最後まで遊び心がたっぷり。「キャラクターデザインの方に、この映画のキャストたちがアニメのキャラになったら?という設定で線画風に描いてもらいました。本編では描かれていないところが入っていますので、最後までぜひ楽しんで下さい。“大純愛スペクタクル”に触れて、幸せな気持ちで映画館を出られる作品が完成しました。ぜひ楽しんでください」

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キャスティング

『ヒロイン失格』の成功を生かして本作でも既視感のないキャスティングを目指し、フレッシュな俳優たちが顔を揃えた。よくできたフィギュアのような美少女という色葉には、数々のCMに出演し、『チア☆ダン』などで女優としても存在感を発揮している中条あやみ。「超絶美少女という設定で余り感情を表に出さない役柄だが、ふとした表情やセリフでその内面を出せるのは、中条さんしかいない」と満場一致でのオファーとなった。筒井には連続ドラマ『砂の塔』で注目を集めていた佐野勇斗が「湿っぽい暗さではなく、つっつんの暗さの中にある明るさを表現してくれるのではないか」とキャスティングされた。筒井と敵対関係を経て友人になるミツヤには、「相手の間合いを引き出す芝居ができる」清水尋也がオーディションで選ばれた。筒井のクラスメイトには『散歩する侵略者』の恒松祐里、後輩のオタク女子に『ハルチカ』の上白石萌歌。そして「ネコ耳が似合うこと」が絶対条件だったという伊東には、中性的なモデルとして人気を集めているゆうたろうを大抜擢。筒井の両親と弟には映画『ヒロイン失格』の竹内力、濱田マリ、荒木飛羽が再集結していることもトピックのひとつ。製作陣が「筒井にとってとても敵わない大人の男性」とする色葉の主治医役を三浦貴大が演じ、ドラマを引き締める役割を担っている。


撮影

セリフ量と情報量が非常に多い作品ということもあり、英監督は撮影前に主要キャストを集めて何度か本読みを行っている。更に必要とあらば英監督がマンツーマンで指導をしたキャストも。撮影に入ってからは、コミカルなシーンでカットがかかった瞬間、真っ先に監督が笑ってしまうという英組ならではの光景が見られ、キャスト陣がずっとこの現場にいたいと口を揃えるほど常にアットホームな雰囲気。ゆうたろうは出番がなくとも現場に来てお茶を配ったり、すでにオールアップしていた中条が佐野の最終日に駆け付けたりというエピソードからも、現場の雰囲気の良さが伝わってくる。「セリフが少ない中でも、色葉の成長のグラデーションや隠されたかわいらしさを繊細に表現してくれた中条さん。豊かな感受性を生かしたエモーショナルな芝居とコミカルな芝居を見せてくれた佐野さん。二枚目から三枚目まで自在な演技でみんなを刺激してくれた清水さん。さりげないけれど抜群にうまい芝居で明るく現場を牽引してくれた恒松さん。早口でオタク的なセリフにアドリブの芝居で不思議な味わいを出してくれた上白石さん。自分の高校時代に重なると言って、心を込めて伊東を演じたゆうたろうさん。誰かがチームを引っ張るというよりもみんなが本当に仲良しで、お互いにいい影響を与え合っていた現場だったと思います」。監督がムードメーカーになって現場を明るく率いて、キャストのモチベーションとポテンシャルを引き上げていく。今回もそんな英組の長所がいかんなく発揮された現場になった。

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えぞみち

製作陣が原作に惚れ込んだ理由のひとつでもある、筒井が愛するアニメ『魔法少女えぞみち』のヒロイン・えぞみち。「~~べさ」という特徴的な語尾で話し、筒井の部屋にはえぞみちのフィギュアが飾られている。時には現実世界にも飛びだして筒井に毒づいたり悪魔的なささやきをしたりする重要なキャラクターの声を、神田沙也加が担当した。「『アナと雪の女王』で多くの人が知るように、声優としても素晴らしい技量を持っている神田さんにぜひお願いしたかったんです。えぞみちは劇中アニメのキャラクターに留まらず、つっつんにとってのメンター的な存在でもある複雑な役どころ。アフレコでは英監督が要求した以上のものを表現してくれて、スタッフ一同感動してしまいました」。英監督はえぞみちの登場シーンについてはCGのような立体ではなく、あくまでも平面に存在することにこだわった。アニメーションのパートは、旭プロダクションに依頼。平面のアニメーションが現実と融合するという表現は日本映画ではあまり例がなく、実写チームとアニメチームが粘り強くコミュニケーションをとりながらの作業となった。キャラクターデザインは旭プロの中でもまだ若手の女性スタッフがデザインしたものが英監督の目に留まっての抜擢となった。原作とはまたひと味違う、映画版ならではのえぞみちが誕生した。

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