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カンタ、日本に帰ろう

ジョバンニの島

作品情報

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私たちには、忘れてはいけないことがある──

心揺さぶる実話をもとにした
感動の物語

知っていますか?ある日突然、故郷を奪われた人々がいることを──。子供たちの涙、大人たちの叫び、二度と帰れない悲しみ。

私たちのこの国で、そんな衝撃的な出来事が実際に起きたのは、第2次世界大戦終結直後のことだった。北方四島のひとつ色丹島にソ連軍が進駐し、島民から自由と平和を奪ったのだ。どんなに時代が変わっても決して忘れてはならないことを、今を生きる大人たち、そして未来を生きる子供たちに伝えたい──そんな想いから、アニメーション映画『ジョバンニの島』が生まれた。

豪華キャストと日本アニメーション界屈指の実力派スタッフで描かれる活き活きとした、豊かなアニメーション

企画・製作は、芸能プロダクション109社が加盟する日本音楽事業者協会(略称:音事協)。その創立50周年を記念した文化事業として企画された。21世紀に向けて音事協が出来る社会貢献として、「忘れてはいけないこと」をテーマに、長きにわたって子供たちに観てもらえるアニメーション映画を作ろうと考えたのだ。

過酷な運命に翻弄されながらも誇り高く生きる人々を、市村正親、仲間由紀恵、柳原可奈子、ユースケ・サンタマリア、犬塚弘、八千草薫、仲代達矢、北島三郎ら、キャラクターのイメージにピタリと合った豪華アーティストが演じている。

原作・脚本は、テレビドラマ「北の国から」の演出や、映画『最後の忠臣蔵』の監督で知られる杉田成道。

アニメーション制作は、「攻殻機動隊」シリーズを手掛け、国内外で高い評価を得るProduction I.G。監督はI.Gとも様々なコラボレーションを続け、『イノセンス』『スカイ・クロラ』などの堅実かつ大胆な演出が高く評価された西久保瑞穂。叙情的な音楽(メインテーマ)には、さだまさし。

日本では数少ない国境と民族を意識させるこの物語は、構想に5年の歳月がかけられ、幾度もの樺太への取材をもとに、リアルかつダイナミックに映像化された。本作で語られる、悲しい運命も心温まるエピソードも、その多くは本当にあったことである。

ストーリー

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1945年春。北方四島のひとつ、色丹島。戦時中ということを感じさせない、美しく穏やかな島だ。ここに、防衛隊長を務める父の辰夫、漁師である祖父の源三とともに、健やかに暮らす10歳の兄・純平と7歳の弟・寛太がいた。2人の名は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラから名付けられた。亡き母が大好きだった物語で、父はいつも二人に朗読させていた。しかし、そんな日々は、8月15日の終戦によって、大きな変化を迎える。

砲声を鳴り響かせながらあらわれたソ連の戦艦。島に上陸する大勢の兵士たち。島民の財産は容赦なく奪い取られ、重要な産業である漁も禁止に。ソ連の人々によって住居を奪われた島民たちは厩舎などに追いやられ、学校では日本とソ連の子供たちの教室が並ぶという事態に。しかし、大人たちの事情とは関係なく、子供達は自然と心を通わせていく。そのソ連の子供達の中に、ターニャという名の、まるで西洋人形のように美しい少女がいた。純平と寛太は、ささやかなきっかけで彼女と知り合い、親交を深めていくのだった。

そんなある日のこと。いつものように連れ立って遊んでいた3人は、山の奥の洞窟に隠された日本軍の膨大な物資を、辰夫が密かに運び出している場面を目撃してしまう。それがきっかけとなり、辰夫はソ連兵に連行され、シベリアの収容所へと送られてしまう。ターニャの父親がソ連軍の将校であると知った純平は、彼女の密告が父を奪い去った原因だと責めたてる。また、残された一家にも日本本土への強制帰還命令が下る。それを受けて源三はひとり、漁師としての生き様をまっとうしようと海へ漕ぎ出し、純平と寛太は本土への中継地である樺太へと運ばれるのだった。

貨物船による旅路は極めて過酷で、また、樺太に到着してからの生活も、寒さと餓えに耐えなければならない、辛く苦しいものだった。純平も寛太も弱りきり、もはや限界を迎えるのは時間の問題。そこに叔父の英夫によって、辰夫の居場所が判明する。

「お父さんのところへ行く。ぜったい行く」

切実な想いに突き動かされ、兄弟は収容所を抜け出すことを決意するのだった。

2人の行く末は、果たして――。

キャスト

瀬能純平

本作の主人公。寛太と正反対な性格。気が小さく、お調子者的な面もある。「銀河鉄道の夜」を暗唱できる。

横山幸汰

キャストプロフィール

2000年12月26日生まれ。埼玉県出身。「贖罪」(足立正幸役)、NHK「平清盛」などのドラマや、『ゼロの焦点』、『まほろ駅前多田便利軒』(由良役)、『武蔵野S町物語』(健一役)、『つやのよる』、『許されざる者』など、邦画の話題作に多数出演する人気子役。

瀬能寛太

幼く見えるが、洞察力があり、何事にも自由で積極的。

谷合純矢

キャストプロフィール

2006年6月2日生まれ。ホリプロ・インプルーブメント・アカデミー所属。「空飛ぶ広報室」「秘密諜報員エリカ」など人気ドラマや、キッズ向けの教育番組「ハッピー!クラッピー」、映画『踊る大捜査線THE FINAL~新たなる希望』、TVCMなどで活躍中の実力派子役。

瀬能辰夫

純平、寛太の父親。島の防衛隊長を務める。感情をあまり表に出さず、寡黙。終戦になってもなお、自分の出来ることを考えている。「銀河鉄道の夜」に妻、光子との想い出があり、子供たちに音読させている。光子は、寛太を産んだ後、他界している。

市村正親

演じる辰夫と同じく僕も2児の父なので、主人公兄弟を自分の息子たちに置き換えてみたり、あるいは自分の子供のころを思い出したりして演じました。厳格な父親である辰夫と自分は、実は正反対。役作りは苦労しましたが、過度な表現をせず僕らしさをだせるように努めました。

キャストプロフィール

1949年1月28日生まれ。埼玉県出身。1973年、劇団四季「イエス・キリスト=スーパースター」でデビュー。退団後も舞台、ドラマ、ナレーション、CMなど様々な分野で活躍する。近年は『ステキな金縛り』(阿倍つくつく役)、『テルマエ・ロマエ』(ハドリアヌス役)、『のぼうの城』豊臣秀吉役、『十三人の刺客』鬼頭半兵衛役など映画出演も多数。声優としても『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(ジャック・スケリントン役)などを演じる。

佐和子

辰夫、英夫と幼なじみ。小学校の教師。純平の担任。子供たちからも慕われて、「二十四の瞳」の大石先生を彷彿させる。辰夫を尊敬し、慕っている。

仲間由紀恵

私自身が戦後の空気を知らないこともあり、特に細かい緊迫感は現場で監督と会話をしながら演じさせていただきました。戦争が子供たちにもたらす非情さを、改めて映画を通して感じることができました。

キャストプロフィール

1979年10月30日生まれ。沖縄県出身。’00年のドラマ「トリック」シリーズ(山田奈緒子役)で初主演。その後「ごくせん」シリーズ(山口久美子役)、「功名が辻」(山内千代役)、「サキ」(網浜サキ役)などヒット作、話題作に出演。映画では、『大奥』(絵島役)、『武士の家計簿』(猪山駒役)、『劇場版テンペスト3D』(孫寧温=真鶴役)など。NHK紅白歌合戦では4度の司会・パーソナリティを務めた。その他、CM,舞台出演など幅広く活躍している。

みっちゃん

純平の家に住み込みで働いている、奉公人の娘。誰にでも好かれる明るい性格。

柳原可奈子

親や祖父母から戦争の体験を聞くこともなかったので、これまで戦争というものを深く考えたことがありませんでした。この作品を通じて、自分がいかに恵まれた環境で生活できているか感じました。私が演じたみっちゃんは明るいキャラクターなので、暗い環境だからといって暗くなりすぎないように気をつけました。

キャストプロフィール

1986年2月3日生まれ。東京都出身。「知っとこ!」「笑っていいとも!」「ペケ×ポン」「リアルスコープハイパー」「スッキリ!!」「もてもてナインティナイン」など、多数のバラエティ番組で活躍する人気お笑い芸人。「空から日本を見てみようプラス」などナレーションの仕事や、ラジオパーソナリティなど声の仕事も手がける。役者としての仕事にドラマ「MONSTERS」(高野恵美役)、映画『まぼろしの邪馬台国』(玉子役)などがある。

英夫

辰夫の弟。純平、寛太の叔父さんに当たる。明るく調子がいい反面、繊細な心を持ち、生命力に溢れている。兄、辰夫とは正反対の性格。商魂たくましく、終戦期のどさくさに乗じて一攫千金を企む。幼なじみの佐和子に片思い。

ユースケ・サンタマリア

アニメーションの吹き替えは初めてです。こんなにいい声をしているのに、なぜお話がこなかったんだろうと(笑)。僕が演じる英夫はひょうひょうとしたキャラクターですが、実は強い人物。初めてですが、やる以上はしっかりやらせていただきます。

キャストプロフィール

1971年3月12日生まれ。大分県出身。ラテンロックバンド「BINGO BONGO」のボーカルとして芸能活動をスタートし、バラエティ番組のパーソナリティ、役者業などへ仕事の幅を広げる。「踊る大捜査線」(真下正義役)、「今週、妻が浮気します」(堂々ハジメ役)、「dinner」(瀬川壮一役)などドラマ出演多数。映画では『少年メリケンサック』(時田英世役)、『日輪の遺産』(野口孝吉役)などに出演。

瀬能源三

辰夫の父、純平、寛太の祖父。時代の移り変わりに流されることなく漁師として海のために己を捨てる覚悟で生きている。

北島三郎

アニメのアフレコは初めてでしたが、とても楽しかったです。私が演じる源三は北の大地の漁師ということで、私とは共通点も多いので、感動するものがありました。私の祖父は日露戦争にいった人間ですが、源三のように思ったのかな、と感慨深いです。

キャストプロフィール

1936年10月4日生まれ。北海道出身。1962年に「ブンガチャ節」(日本コロムビア)でデビュー。以来、演歌ひとすじ五十余年で活躍する、日本を代表する演歌歌手。「兄弟仁義」「与作」「まつり」ほか、手がけたヒット曲多数。長年にわたる舞台公演やテレビ時代劇への出演などを通じて、役者としても高い評価を受けている。役者としての代表的な仕事には「暴れん坊将軍」シリーズの江戸町火消し「め組」頭・辰五郎がある。

ターニャ

本編のヒロイン。ソ連将校の娘。ソ連の進駐とともに、島に移り住むことになった。強気の反面、とても淋しがりやでもある。

ポリーナ・イリュシェンコ

オーディションに参加してから、役が決まるまでの一ヶ月は不安で、毎日のように母に合否の連絡が来たか確認していました。採用が決まった時のことは今でも忘れられません。アフレコでは、モスクワに来た日本のスタッフにお会いしました。収録にはとても時間がかかりましたが、楽しく濃密な5日間でした。最後の日に、赤の広場などを案内できたのも良い思い出となりました。
日本の皆さまへ。歴史的な軋轢や言葉の壁を乗り越え、異なる国の子供達の間に芽生えた友情の物語を、ぜひ楽しみにしていて下さい!

キャストプロフィール

1998年8月18日、モスクワ生まれ。5歳の頃から演劇を始め、代表作に「Emergo」「Great Expectations」など。声優としても「A.N.T Farm」などを演じている。2013年からはドイツに在住し、国際的に活躍。

村長

犬塚弘

映画で描かれている時代当時、僕は中学生でした。戦後の貧しい時代を経験した身としては、戦争の悲劇は繰り返してはいけないと思います。

キャストプロフィール

1929年3月23日生まれ。東京都出身。「ハナ肇とクレージーキャッツ」のメンバーでベース担当。俳優として映画、テレビ、舞台などで活躍する。主な出演作品に『素敵な今晩わ』『ほんだら剣法』『ほんだら捕物帖』『喜劇 右むけェ左!』『ニッポン無責任時代』『男はつらいよ』シリーズ『ポストマン』『春よこい』『転校生 さよならあなた』『少年メリケンサック』『この空の花 長岡花火物語』『ふたたび』などがある。

瀬能純平 (現代)

仲代達矢

アフレコはあまり経験がないので緊張しました。八千草さんとはずいぶん長い間映画でご一緒しているので非常に楽しくやらせていただきました。終戦当時、わたしは中学1年生で世の中の大転換に立ち会いましたが、多くのみなさんは戦後の平和しか経験していないなかで、この作品を通じて戦争はやってはいけないという思いを感じてほしいです。

キャストプロフィール

1932年12月13日生まれ。東京都出身。無名塾主宰。「どん底」「リチャード三世」「ソルネス」などの舞台で芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞、紀伊国屋演劇賞ほか数々の賞を受ける。映画においても小林正樹監督『切腹』、黒澤明監督『影武者』など、日本を代表する作品に出演。テレビドラマでもNHK「新、平家物語」「大地の子」ほか代表作は数多い。声の出演としては、近作に高畑勲監督最新作『かぐや姫の物語』がある。

佐和子(現代)

八千草薫

一度だけアニメのアフレコをやったことはありますが、今回はアニメを意識せずドラマと同じように演じました。戦争で恐い思いをしましたが、もっと辛い経験をした方もいらっしゃると思います。戦争はしてはいけないということを知りながら戦争はなくならない。小さな努力を積み重ねることが大事だと、作品を通じて思いました。

キャストプロフィール

大阪府出身。演劇、映画、ドラマで活躍し、菊田一夫演劇賞、紫綬褒章など数々の賞を受ける。主な出演作品に『二十四の瞳』『細雪』『女系家族』『華岡青洲の妻』(以上、舞台作品)『八代将軍吉宗』『利家とまつ~加賀百万石物語~』『最高の離婚』(以上、テレビドラマ)、『阿修羅のごとく』『しゃべれどもしゃべれども』『ディア・ドクター』『舟を編む』(以上、映画)などがある。

その他のキャスト(50音順)

  • 生徒B阿部考将
  • 島民5井上一馬
  • 島民3井上優
  • 生徒F大塚一慧
  • 島民B(Aパート)大塚庸介
  • 島民2(Aパート)岡本光太郎
  • 暁部隊隊長北山たけし
  • 熊倉結菜
  • 島民4近藤喜代市
  • 生徒C斉藤碧大
  • 島民B(Cパート)酒井啓全
  • 島民Dザクマシンガン山田
  • 柴田花恋
  • 島民①(Cパート)下崎紘史
  • 島民F/氷屋鈴木アキノフ
  • 村人A竹田吉輝
  • 島民E田代32
  • 村人B寺中寿之
  • 徳武史弥
  • 島民A(Cパート)内藤玲
  • 女の子1中田美優
  • 永田春
  • 島民G鍋谷哲也
  • 村人A原田健二
  • 女の子2バルア・
    オディティヤ
  • 島民A(Aパート)比上孝浩
  • 島民1(Aパート)堀内学
  • 生徒A/根岸君本間翔
  • 女の子3舞優
  • 島民②(Cパート)牧本泰山
  • 村田優吏愛
  • 靖子の母親/老生徒山口ひろみ
  • 老婆/老生徒J塚本山村美智

スタッフ

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原作・脚本
杉田成道 (「北の国から」シリーズ、『最後の忠臣蔵』)
脚本
櫻井圭記 (「攻殻機動隊 S.A.C.」「お伽草子」)
脚本協力
池端俊策 (「太平記」『優駿 ORACION』)
音楽(メインテーマ)
さだまさし (『精霊流し』『解夏』)
キャラクター原案
福島敦子 (『アタゴオルは猫の森』「ポポロクロイス物語」)
キャラクター設定・作画監督
伊東伸高(「四畳半神話大系」)
色彩設計
遊佐久美子(「宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-」『イノセンス』)
車輌設定
荒川眞嗣(「風人物語」)
美術設定
岩熊茜 (「よんでますよ、アザゼルさん。」)
小物設定
海島千本(「ブラック・ブレット」)
総美術監督
サンティアゴ・モンティエル(「Noximilien the Watchmaker」「Wakfu」)
美術監督
林孝輔(『グスコーブドリの伝記』松本零士「オズマ」)
稲葉邦彦(『時をかける少女』「魔法少女まどか☆マギカ」)
CG監督
井野元英二(「攻殻機動隊 ARISE」「コードギアス 亡国のアキト」)
撮影監督
中田祐美子(「テイルズ オブ イノセンス R」)
ビジュアルエフェクト
江面久(『スカイクロラ』『イノセンス』)
齋藤瑛(『スカイクロラ』『イノセンス』)
編集
植松淳一(『ももへの手紙』『攻殻機動隊S.A.C. 』)
演出
橘正紀(「東京マグニチュード8.0」「.hack//Quantum」)
監督
西久保瑞穂(『宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-』『アタゴオルは猫の森』)

主題歌「銀河鉄道の夜~星めぐりの歌~」

歌唱:日本音楽事業者協会 正会員社 所属歌手

  • 石川えりな
  • 出光仁美
  • 井上由美子
  • 歌恋
  • 川上大輔
  • 菊地まどか
  • 北山みつき
  • 栗田けんじ
  • 紅晴美
  • 三条ひろみ
  • 三代目 コロムビア・ローズ野村未奈
  • 寿里
  • 白川ゆう子
  • 千田裕之
  • はやぶさ
  • 山口ひろみ
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「ジョバンニの島」の舞台裏

第1回 総美術監督 サンティアゴ・モンティエルさん

ナビゲーター:設定制作・美術進行吉澤佑実子

「ジョバンニの島の舞台裏」目次へ

『ジョバンニの島』の美術には三人の美術監督がいます。その中でも、美術チーム全体がどんなスタイルやコンセプトで描いていくのか、その大本のスタイルを決める仕事をしたのが総美術監督のサンティアゴさんです。
サンティアゴさんの作り上げた独特の線を持つ美術スタイルは、スタッフの間で「サンティアゴ・ライン」と呼ばれ、『ジョバンニの島』の作品全体の方向性を決めることになりました。その特徴は「ガタガタとした歪んだ線」にあります。

アニメ制作の美術は、キレイに整った線で描くのが一般的です。整った線と遠近法に沿うことで、描かれた物体に大きさや距離感のリアリティを与えることができます。ところが「サンティアゴ・ライン」では、あえてそのやり方を逸脱したスタイルを採択しているのです。その「サンティアゴ・ライン」がよく分かる1枚から、「ジョバンニの島」制作の舞台裏を覗く旅が始まります……。

純平たちが移送された樺太の街並みの美術ボードです。画面の手前から奥の山へ向かって伸びた大通り、その左右には店などの建物が建ち並んでいます。この絵を見て誰もが気づくのは、建物や電柱の線が歪んでいることではないでしょうか。そして雪や壁の木目には、筆や釘か何かで引っ掻いたような跡が見つけられます。
他のアニメーション美術とは一線を画すこのスタイルを生み出したサンティアゴさんには、どんな想像力の源泉が沸いているのでしょうか。

――サンティアゴさんはアルゼンチン生まれで、フランスで働いて、今回こうして日本のアニメーション作品に参加していらっしゃいます。ご自身がカルチュラル・ミックスそのもののようで『ジョバンニの島』にはピッタリな方だとお思います。『ジョバンニの島』のお話を最初に知った時の感想はいかがでしたか?

サンティアゴ 非常に感動して、一発で気に入りました。『ジョバンニの島』には、ただ面白おかしいとか、冒険譚というだけでなく、人間の本質に迫るようなメッセージ性が随所にみられるので、僕の好みのタイプの物語です。登場するどのキャラクターも置かれている環境が複雑で、一言で善悪を言い表すことができないところにも惹かれます。なので、参加する事に意義のある作品だと思いました。

――『ジョバンニの島』の主人公は2人の子供ですが、サンティアゴさんが子供の頃に育った環境はどんな感じでしたか?

サンティアゴ 僕はアルゼンチンのブエノスアイレス近郊の小さな町で生まれました。周りは小さな家ばかりで、周りの住人のこともよく知っていたし、住むには良い所でした。海はなかったけれども、近隣の住人がお互いを知っている純平たちの暮らしていた環境はなんとなく想像できました。

――色丹島はサンティアゴさんが住んでいた町に似ていますか?

サンティアゴ 純平と寛太が住んでいる村のほうが、僕が育った街よりずっと綺麗ですよ。

――『ジョバンニの島』の中にサンティアゴさんの故郷らしさを感じるところはありますか?

サンティアゴ アルゼンチンらしい部分は……太陽の光ですね。初めて日本に来た時、夏の暑い日差に故郷を感じました。フランスのようなヨーロッパの国とは、光が全然違うのです。来日したとき、驚きと懐かしさを感じたのを憶えています。

――サンティアゴさんの出自やこれまでの経験が『ジョバンニの島』の作風に影響しているのではないでしょうか?

サンティアゴ もちろんです。僕が初めてヨーロッパを訪れた時は全てが目新しく、未知の体験ばかりで驚きの連続でした。

――サンティアゴさんには総美術監督というアニメーション制作では珍しい役職として、「ジョバンニの島」の美術コンセプト作りをしていただきましたが、いかがでしたか?

サンティアゴ 企画の初期から関わっていたので、ストーリーやメッセージに合うコンセプト・アート作りからはじめることができたのはチャレンジでした。どんな画風がこの作品には相応しいのか色々と試していく中で、ガタガタとした特殊な線で描くことと、木版画を意識したなるべくシンプルな色使いにする作風に辿り着いたのです。ただそのために、半分以上の背景美術を自分で手がけ、他の美術スタッフにもこの画風をマスターしてもらう必要がありました。

――どうして、木版画調の作風が『ジョバンニの島』には合うと思ったのですか?

サンティアゴ 理由は2つあります。まずこの物語は、純平の子どもの時の記憶が語られているからです。彼がその時々で感じていたニュアンスを伝えるためには、リアリスティックな描写ではなく、ドラマティックであるほうが適していました。それに、この物語はロシアと日本の2つの文化が出会いのお話でもあります。この文化の融合を背景でも表現してみようと、私の好きな日本の木版画作家である川瀬巴水や吉田博の画風と、もう一つ好きなゴッホの油絵のテイストを足して、2つの文化を混ぜてみたのです。

――サンティアゴさんが来日している間に、大好きな版画家の川瀬巴水の展覧会が丁度開催されていましたよね。実物を見に行かれていかがでしたか?

サンティアゴ 本でしか見たことがなかったので、本物を目にすることができたのは良い経験でした。今まで見たことがない川瀬巴水の作品なども展示されていて、製作方法の解説コーナーもあり、非常に興味深く貴重な体験でした。

――サンティアゴさんの独特の線を持ったスタイルが定着したのは、樺太の街並みの美術ボードを描いていた頃でしたよね。

サンティアゴ プロジェクトの最初期の頃に描いたボードですね。作品の中では後半に登場しますが、描いた順序でいえば初期の頃に描いていました。これを描いた時は2、3枚しか写真資料がなかったので、街にいる感じを想像するのが難しかったです。

――ソビエト通りの写真を元にしていましたが、今見直してみると、所々に日本語とロシア語が入り交じっていて面白いですよね。これも2つの文化の融合ですね。

サンティアゴ キリル文字はネットで探して作成しました。制作していた時は、色丹や樺太の重要な場面から手を付け始めていたんです。この段階で、作品のコンセプトに合う、写実と抽象の落とし所に一つの答えを見いだせました。日本語とロシア語が混在していることも合わせて、このボードは作品の方向性を決定づけていますね。

――この美術ボードからスタイルが確立していったように見受けられました。

サンティアゴ 樺太の美術ボードのスタイルで作品の方向性が見えたので、それまでにやっていた他の箇所のボードも、このスタイルに合わせて作り直しました。

――制作の時にとても印象的な思い出があるのが、銀河鉄道が走る宇宙のボードをサンティアゴさんが描いていた時です。この絵にとても集中していて話しかけられず、後日聞いたところ「絵の中を旅していた。」といっていたので、どういうことなのか気になっていました。

サンティアゴ 基本的に私が背景を作る時はいつもそうやって作業します。自分が背景の中に入り込んでいる感覚がないと、うまく描くことができないのです。よく音楽をかけて現実の世界から自分を切り離し、イメージの世界に没入して、その世界を背景として描くのです。ピンク・フロイドが特に好きです。

――背景作業中にはピンク・フロイドばかり聞くのですか?

サンティアゴ 作業している背景の内容や作業状況で変えています。サイケ系の曲を聞いていることは多いですが、ノスタルジックやコミカルな場面ならそれに合った音楽に変えますし、急いでいる場合はエレクトリックミュージック等を聞いて気分を高揚させます。いずれにしろ仕事する時にはインスピレーションを得るために音楽は欠かせません。音楽によって得たモノを自分の感情やメッセージと混ぜることで描くべき背景の世界が生まれてくるのです。

――音楽がイメージの世界への切符なのですね。

サンティアゴ ただ、背景の世界は独立している訳ではなくて、例えばこの宇宙のボードは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の世界観や、それを想像する純平たちのイメージの世界ともつながっています。だから、作品を仕上げるために自分からそういう世界に入り込んで、あちこちの世界を旅をしているのです。

――制作を終えてみて、今どんなお気持ちですか?

サンティアゴ 『ジョバンニの島』に参加できたことは本当にとても幸せなことでした。ストーリーが非常に素晴らしいので、映画をみてくれる方々がこの作品を気に入ってくれることは疑う余地がないですが、背景も気に入ってもらえると嬉しいですね。それと、もうフランスに戻ってきてしまったので、日本のスタッフのみなさんに会えなくて寂しいです。みなさんとは非常に満足のいく仕事ができました。こんなに良いチームで作品を作れる機会にまた巡りあうことができるか、心配になるくらいです。

――私も、サンティアゴさんが日本での作業を終えて帰国される時はとても寂しかったです。一緒にお仕事ができて本当に幸せでした。

サンティアゴ 制作としても吉澤さんは優秀で、一緒のチームで働けて嬉しかったです。『ジョバンニの島』に参加していた作画監督や原画マン、脚本家に監督といった人々が才能あるスターだったのは勿論だけど、制作陣も誰もが非常に優秀で作品に大きく貢献している。彼らの仕事は映像の中には直接は現れてこないけれど、彼らもまた輝いていた、いわば地上の星です。『銀河鉄道の夜』は星の世界を巡るお話ですが、その星はスタジオにもあったことを、僕は忘れません。

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「ジョバンニの島」の舞台裏