ルイジアナの田舎にぽつんとたたずむ不気味な雰囲気の小さな町アンブローズ。この架空の町を舞台にした『蝋人形の館』は、オーストラリアのクイーンズランド州にあるワーナー・ロードショー・スタジオと、そこから車で45分ほどのグアナバでのロケで撮影された。その地に、監督のジャウム・コレット=セラ、撮影のスティーブン・ウィンドン、そして、『ゴーストシップ』(02)や『ゴシカ』(03)を手がけた美術のグラハム・“グレイス”・ウォーカーが、本作の中心となる壮大なセットをゼロから造ったのだ。

「『ゴーストシップ』のときは大型客船を、『ゴシカ』では精神病院の内部を造った」と製作のジョエル・シルバーは言う。「そして『蝋人形の館』のためにひとつの町を造ったのさ」

「僕とグレイスがそれぞれ脚本を読み、別々にアンブローズのレイアウトを描いたら、そっくりだったんだ」とコレット=セラが当時を思い返す。「町のスタイルについては、いわゆる“普通の”小さな町とか、典型的なホラー映画でよく登場するゴシック風の町よりももうちょっとユニークな何かが欲しいというのがジョエルの希望だった」

「1本の映画のために町を丸ごと造るなんて何度もあるかい?」と尋ねるシルバーは、これまで40本以上の映画を製作してきて、アンブローズは彼が造らせた初めての町だと言う。「ダーク・キャッスル作品のすべてにおいて、私たちはこれまでのホラー映画にはないユニークな環境を創り出したいと思っている。アンブローズを造ることによって、私たちはその限界をさらに広げたんだ」
シルバーは、東アフリカの小さな都市アスマラを参考にしてはどうかと美術チームに提案した。近年のすばらしい建築史的発見とされるアスマラは、1930年代のモダニズム運動の時期にイタリア人設計家たちによって建築革命のための主要な建築現場として使われ、“アフリカのマイアミ”というニックネームまで付いた。

グアナバのだだっ広い牛の放牧場でアンブローズにピッタリのロケーションを見つけたのは製作総指揮のハーバート・W・ゲインズだった。「そこは丘に囲まれた広大な野原で、人里離れた場所だという感じがはっきり出せる」

「牛を追い払わないといけなかったけどね」と言うウォーカーの建築チームは3エーカーの農場をわずか10週間でアンブローズの町に変身させた。家などを建てる前に、彼らは深い溝を掘り、地下に4キロメートルのケーブルを配置して水道と電気を通じさせ、ウィンドン率いる照明チームが町の通りに沿って計算にもとづき配置した750台の個々の照明の調光を調節できるようにした。

本物の雑草が生えたひび割れた歩道のある、ほこりっぽいメイン・ストリートに沿って、ウォーカーのチームはガソリン・スタンド、映画館、理髪店、雑貨店、ペット・ショップ、そして数軒の古びた家を建てた。道の行き止まりには教会と墓地、さらに丘を上ったところにはシンクレアの屋敷がある。

人けのない町の中で不気味に浮き上がっているように見えるのがアンブローズの名所、トルーディーの蝋人形館だ。不運な訪問者となった若者たちはその館が文字どおり蝋でできていることにまもなく気づく。流線形のモダンな外観から、館の内部に特異な魅力を与えている展示品や家具にいたるまですべてが。館の中には、無数の蝋人形が混在し、踊り、あたかも時間が凍結したかのような凝ったパーティー・シーンが演出されていた。

「グレイスの蝋人形館のデザインは細部まで不吉な伏線でいっぱいだ」とシルバーは熱っぽく語る。「最初はそのスタイリッシュな正面に目が引かれるが、じっくり見れば見るほど落ち着かない気分になってくる」
蝋人形館のセットには20トンもの蝋が使われた。この館は通常の建材で建てられたあとで、スプレー式の蝋で外面がコーティングされている。「色がもっともよい天然の蝋は蜜蝋といわれるものなんだ」とウォーカーが説明する。「ゴールドとオレンジの斑点がある濃いブラウン。僕らはこの蜜蝋の色を蝋人形館の下地として、また、映画の中でビンセントが使う蝋に利用した」

蝋人形館を構成する4つの主なセット
リビング、音楽室、キッチン、そして地下にあるビンセントの邪悪な工房は、館が炎に包まれ、ゆっくりとその蝋の住民を溶かしていく衝撃的なクライマックスを撮影するために複製され、改良された。

「基本的に、その“固体”と“液体”の中間の状態を、上映時間としては10分間、維持しなければならなかった」とコレット=セラは言う。「それが撮影でいちばん大変だった部分だな。熱をあてずに蝋が溶けているように見せる方法について書かれた本はないからね。熱をあてたら俳優まで溶けてしまうし」

ウォーカーのチームは、俳優が触れると物理的に反応する“柔らかいセット”を作るのに適切な質感を見つけるため、さまざまなタイプの蝋を試した。各テイクごとに、セットの表面と家具はいちいち塗り直され、撮影できる状態に修復されなければならなかった。

「美術監督としての役得は、ああいう才能豊かな人々と仕事ができることだね」とウォーカーは自分のチームを褒める。「自分のデザインに生命が吹き込まれ、考えていた最高の状態をも超える出来栄えのときは実に気分がいいものだよ」
アンブローズというゾッとするような冷たい美しさをもつ町の雰囲気を創り出すカギは、広大なセットを蝋でできた“住民”で埋め尽くすことだった。
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)、『マトリックス リローデッド』(03)、『マトリックス レボリューションズ』(03)などを手がけた人工装具と特殊メイクのエキスパートであるジェイソン・バードがワックス・ボディー監修を務め、35人のアーティストから成るチームを率いて本作の蝋人形のデザインと制作に専念した。

7か月にわたって休みなく働いたバートのチームはスカルプター(彫刻制作者)、モールド・メーカー(型制作者)、ペインター(彩色者)、ヘア・テクニシャンで構成され、トルーディーの蝋人形館のパーティー客、教会での葬儀に集まった教区民やオルガン奏者や司祭、ずっと留まることになった映画館の観客と案内係など100体以上の複雑で凝った蝋人形を制作した。ちなみに、その映画館では1962年製作のスリラー『何がジェーンに起ったか?』がエンドレスで繰り返し上映されている(その作品と本作にはテーマでもある兄弟姉妹間のライバル意識という共通項がある)。

町じゅうに展示された人形は、スタッフから“デッド・ワックス・ピープル”(死んだ蝋人間たち)と呼ばれるようになる。これらの人形はファイバーグラスと半透明のシリコンの型で作られた。それらが壊れたり、燃えたりするシーンのために特殊効果の人形も数体、作られた。身体構造について詳しく研究した結果、バードのスタッフは、蝋に覆われた表面の下で腐っていく肉体をリアルに表現するために、人工の骨格から骨の型を作り、それをシリコン・スキンの下に入れた。

本作で使われた人形のすべては実際の人間の複製である。バードはジャウム・コレット=セラとともにキャスティングをおこない、それぞれの人形にとってぴったりの外見をもつエキストラを選んだ。その後、エキストラたちの頭部、手、胴体の型が採られ、それを基にファイバーグラスとシリコンの型が作られた。教会や満員の映画館に座っている“デッド・ワックス・ピープル”を表すエキストラたちは、セットの信者席や映画館の座席に実際に座っているあいだにポーズを取らされ、型を採られた。出来上がった人形を撮影用に置くとき、あたかも本物の人間が座っているような自然な姿勢にするためだ。

さて、人形がひととおり出来上がると、ペインターとヘア・テクニシャンがメイク、ウィッグ、そして顔の毛などの仕上げを念入りにおこなう。肉体の型を採ることから出来上がった“人物”に服を着せるところまで、個々の人形が完成するまでだいたい3〜4週間かかった。

「ジェイソンたちの仕事ぶりは見事なものだった」とジョエル・シルバーは称賛を惜しまない。「彼らが新しい人形を見せてくれるたびに、私は『もっと作ってくれ!』と頼んだぐらいだ」

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