るろうに剣心


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『るろうに剣心』撮影中から始まった続編の企画。
20カ月に及ぶ怒涛の「航海」の始まり。


2部作を一気に撮影する。日本映画としては前代未聞のスケールによる挑戦がおこなわれた『るろうに剣心京都大火編/伝説の最期編』。なぜ、このような事態を迎えたのか。エグゼクティブプロデューサー、小岩井宏悦は次のように語る。話はPART1の製作時(2011年)にさかのぼる。

「当初から、『るろうに剣心』を映画化するのなら、“京都編”からやるべきなんじゃないか。そんな考えがありました。原作ファンの間でも、いちばん人気があるエピソードは京都編ですからね。PART1の段階で、志々雄真実を出すというアイデアもあったんです。ただ、様々な前提がわからないと、剣心と志々雄との対決はなかなか深まらない。だったら、“神谷道場物語”的なものをちゃんとやらなければいけないのではないか。それがもし、うまくいったら京都編をやろうと。そうしてPART1が始まった。できれば京都編を作りたい。それがいちばん大きな目標としてありました」

通常、続編はヒットしてから製作が決定する。しかし、PART1撮影中に大きな手ごたえを得た小岩井は、その現場で大友啓史監督に続編の打診をしたという。「もちろん、PART1が当たらなければ現実に作ることはできません。ただ、その段階で、もう『次をやりたい』と思っていたのは事実。そして、やるとなったら、京都編は映画1本のボリュームには入りきらないのはわかっていました。ヒットを受けての続編製作なのであれば、思いきって、前後編を一緒に作ってしまおう。現在のお客さんは『2部作は重い』と感じるのではなく、むしろ『2部作にするほど自信があるのか』と捉えてくださる。だったら、2部作にしたほうがいいと考えたのです」

そして、『るろうに剣心』は想像を超えるメガヒットを記録。正式に続編の製作がスタートしたのは2013年の年明けから。そこから実に20カ月に及ぶ怒濤の“航海”が始まった。その道のりは並大抵のものではなかった。


最大限の豊かさを追求した撮影。
製作費30億円! 撮影期間6カ月、
エキストラ延べ5000人、ロケ地30カ所以上


まず、元々5カ月間におさめるはずの撮影期間は、結果、6カ月に伸びた。なぜなら、2013年は幾多の台風に見舞われた年であり、本作もなんと四度の台風に遭遇、半年にわたる撮影期間中、雨天中止は20数日にもなった。また、多彩なキャスト陣はいずれも人気者。それぞれのスケジュールにあわせて撮影を組んでいるので、費用効率、撮影効率を最優先にはできない。おそろしく手間のかかる状況の中、しかし、『るろうに剣心』は日本映画として考えられる最大限の豊かさを追求した。

なかでも大きいのはロケ地だった。実に10都道府県。全国30カ所以上のロケが敢行された。まさに北から南まで移動していたのである。「結果的にそうなりました。江戸時代でもなければ、近代でもない。『るろうに剣心』は、言ってみれば新しい価値観や風景が生まれようとしている明治時代を舞台にしているため、ロケ地が多岐にわたったんです。和洋折衷の場所はありそうで、それほどはない。しかも、少しでも妥協してしまうと、『るろうに剣心』ならではの世界観が一気に崩壊する。続編である以上、前作を超えるのは当然のことですからね。逆に言えば、成功した作品の続編でなければできないことができていると思います」

画面に映るパースペクティヴは、PART1よりもはるかに大きく、ワイドで、映画『るろうに剣心』でしか“出逢えない場所”が、より確信犯的に展開されている。「PART1と同じことをやっていても仕方がない。それが大友監督以下、キャスト・スタッフ全員の共通認識でしたね。いい意味で期待を裏切らなければいけない。お客さんの予想よりも上を行かなければいけない。すぺてのパートがそれを意識していたんです。つまり、前作よりも、もっとやる!と」粘りに粘って探し出したロケ地だからこそ、贅を凝らした美術セットも違和感なく映える。とりわけ志々雄の魔力を輝かせる煉獄のセットや志々雄の登場シーンは、破格の規模である。

「今回は、物語的にも、場所が次々に移っていくことが重要なんです。そもそもがロードムービー的な展開ですし、同じような空間が続くのではなく、バリエーションが豊かでなければいけない。もちろん、リアリティは重視した上で。原作漫画は多くの読者に大きなイマジネーションを与えています。映画は当然、その追体験を求められます。今回の美術は、ワーナー・ブラザース本社の制作担当が見ても驚くほどの規模とクオリティになっています」


進化したアクション、最後は人間同士の闘い。
長期撮影により深まった役に対する理解


視覚効果で言えば、800着以上用意された衣裳には物語性も加味されている。従来の時代劇の世界観を大きくチェンジさせた映画『るろうに剣心』は、さらに進化している。決定的なのはアクションだ。

「おかげさまでPART1のアクションは、喜んで受けとめていただきました。では、あれ以上のものをやるにはどうすればいいのか。そのために、ロケ場所や美術セットに様々な工夫がこらされています。狭い場所、広い場所、高低差などバリエーションが考えつくされており、それだけアクションの可能性もひろがります」

ワイヤーアクションも取り入れる。しかし、最後の最後は人間同士の闘い。そこに行き着くのが『るろうに剣心』なのだと小岩井は力説する。役者自身が身体を張ってアクションに挑むリスクを選択しつづけているのも、そのためだという。

「とにかくアクションをただのスペクタクルにするのではなく、演技の一環と考える、というのは前作と変わっていません。今回は前作以上にその役者自身がアクションをするという「ドキュメンタリー性」が増しており、映像を観たある人は『ソチオリンピックの浅田真央選手の演技を観た時に近い感動を覚えた』と言ってくれて、これこそ半年以上がんばった佐藤健くんや他の役者、スタッフへの最大級の賛辞であり、思いがけない到達点でしたね」

撮影が長期にわたることによって、キャスト陣の役に対する理解、思い入れが深まり、芝居がより強くなったという。つまり、この作品のスケールはキャラクターの“内的時間”にも大きな影響をもたらしているのだ。「スタートした時点では、ここまで大きな規模になるとは想像していませんでした。しかし、いまにして思えば自然な流れだったのかもしれません。つまり、必然だった。描くソフトにふさわしいハードを用意した。この内容を入れるためには、この“容れ物”が必要だった。そんな自負があります」



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