『マン・オブ・スティール』(13)から始まったDCスーパーヒーロー映画の一連の作品群、俗に言う「DCエクステンデッド・ユニバース」は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)とは異なり、比較的緩やかにその連続性を保ち続けてきた。 『マン・オブ・スティール』に続いてザック・スナイダーがメガホンをとった『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)、『ジャスティス・リーグ』(17/または2021年の『〜:ザック・スナイダーカット』)は3部作を成しており、スーパーマンのヒーローとしての覚醒から超人チーム“ジャスティス・リーグ”の結成までが描かれた。DCの悪党たちが活躍する『スーサイド・スクワッド』(16)にもジャスティス・リーグのバットマンやフラッシュが登場するなど、3部作と同一の世界観で物語が展開する。が、これらの作品は結果的に期待されたほどの評価を得られず、DCEUは早くも路線変更が図られる。キャラクターやストーリーの一貫性や辻褄合わせよりも、“単体で楽しめる”か否かを重視する方向にシフトしたのだ。 例えば『ワンダーウーマン』(17)や『アクアマン』(18)は、『ジャスティス・リーグ』以前に登場したヒーローのソロ映画ながら、ことさら前後の作品とのつながりを強調しない独立した娯楽作として成立しており、それが奏功し世界中で特大ヒットを記録した。以降この路線を踏襲したDCEU作品は興行的または批評的に大きな成功を収めていく。 『ワンダーウーマン』の直接の続編である『ワンダーウーマン 1984』(20)は例外として、『シャザム!』(19)、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(20)は過去作とのリンクは多少あるが単体で観ても問題なく楽しめるし、『ジョーカー』(19)、『THE BATMANーザ・バットマンー』(22)は他作品との関連性は(現時点では)ゼロ。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)に至っては、『スーサイド・スクワッド』と一部のキャラクターが重複するものの続編でもリメイクでもない、特殊なポジションの作品となっている。この自由さと多様さこそ、DCEUの魅力のひとつであったことは間違いない。 では今後、映画における「DCユニバース」はどうなっていくのだろうか。先ごろ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのCEOデヴィッド・ザスラフが、今後10年をかけてDC映画を再構築し、MCUのような一大ユニバースを形成するプランを発表。それと平行して、まずドウェイン・ジョンソンがタイトルロールを演じる『ブラックアダム』で、DC映画の“マルチバース”(=多元宇宙)化が本格的に始まる。同作でプロデューサーを兼任したジョンソンも、サンディエゴ・コミコン2022にて「DCユニバースは大きく変わる」と発言している。そしてDCユニバースのマルチバース化をさらに推し進めるのが『ザ・フラッシュ』(2023年公開)だ。超高速移動能力を持つフラッシュが並行世界を行き来し、なんと『バットマン』(89)や『バットマン vs スーパーマン〜』など異なるユニバースの複数のバットマンが登場するとされている。ということは、今後はDCEUより前の作品でさえ、何らかの形で“つながる”ことがあるかもしれない。 さらに、『シャザム!~神々の怒り~』(2023年3月17日公開)や『アクアマン・アンド・ザ・ロスト・キングダム(原題)』(2023年全米公開)などの続編も待機中だ。ブラックアダムはそもそも原作コミックではシャザムのライバルなので、『シャザム!〜』に登場してもおかしくない。 マルチバースならではの自由なキャラクターの往来、設定の共有・更新によって、DCユニバースの可能性は無限に広がっていくだろう。 そこには、これまで以上に驚きに満ちた、胸躍る物語が待っているはずだ。