あの傑作『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督と、ティモシー・シャラメの再タッグが実現。
不気味で恐ろしいと同時に、優しく切ない、この世でたったひとつの物語を誕生させた。
生まれながらに人を喰べる衝動を抑えられない18歳の少女マレン。
彼女はその謎を解くために顔も知らない母親を探す旅に出て、同じ宿命を背負う青年リーと出会う。
初めて自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を見つけ、次第に求めあう二人。
反逆者のように生きてきたリーを演じるのがティモシー・シャラメ、逃れられない本能に立ち向かうマレンに『WAVES/ウェイブス』のテイラー・ラッセル。
アカデミー賞受賞俳優のマーク・ライランスも同族の役で怪演。世界を驚愕させた「人喰い」の若者たち・・・
1971年8月10日、イタリアのパレルモに生まれる。米アカデミー賞ノミネート作『ミラノ、愛に生きる』(09)、『胸騒ぎのシチリア』(15)、『君の名前で僕を呼んで』(17)、『サスペリア』(18)といった称賛を受ける映画に脚本家/監督/プロデューサーとして携わってきた。これまでに、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、英アカデミー(BAFTA)賞最優秀監督賞、ナストロ・ダルジェント賞最優秀監督賞など、多くの賞でノミネート/受賞を果たしている。
2011年にはベイルート国際映画祭の審査委員長を務め、第68回サン・セバスチャン国際映画祭でも審査委員長を務めた。待機作には、現在ポストプロダクションにはいっている『Challengers』などがある。
本作は、ルカ・グァダニーノ監督との3度目のコラボレート作品であり、脚本と製作を担当。
また、AMC放送で高評価のシリーズ「ザ・テラー」(18~19)の企画・製作総指揮を務めている。グァダニーノ監督作品では『胸騒ぎのシチリア』(15)で製作総指揮を手掛け、『サスペリア』(18)で製作を担当した。最近、ティム・ウィントンの小説「The Riders」の脚色を完了。この作品では、リドリー・スコットと製作を担当する予定である。
旅を彩るサウンド
マレンとリーのスリリングで危険な旅に観客を引き込むために欠かせない最後の要素が、示唆に富む映画音楽である。“デュラン・デュラン”で始まるサウンドトラックは瞬時に観客を80年代のティーンエイジャーのベッドルームへと誘う。さらに“ジョイ・ディビジョン”や“ニュー・オーダー”といった80年代を代表するインディー・バンドの楽曲も含まれていた。
一方で、グァダニーノ監督が音楽制作を依頼したのは、これらのバンドの影響を受けながら、孤独と切迫感を音で表現できる特筆すべき能力を身につけ、80年代以降に登場した2人のミュージシャン、トレント・レズナーとアッティカス・ロスだった。ふたりは今や、社会を鋭く風刺したインダストリアル・ロックバンドの“ナイン・インチ・ネイルズ”としてだけでなく、米アカデミー賞を受賞した『ソーシャル・ネットワーク』やピクサーの『ソウルフル・ワールド』などの幻想的で独特の雰囲気のある音楽でも有名である。
「ふたりは彼らの世代で最も優れた作曲家だ」とグァダニーノ監督は言う。「彼らと話し始めた瞬間に、ふたりとは真のパートナーになれると思った。ふたりにはオープンで寛大で、繊細な魂が宿っているんだ」
グァダニーノ監督の望んでいるものはまだ漠然としていたが、レズナーとロスはその具現化に全力で取り組んだ。「アメリカの風景を反映したサウンドを見つけようという話になり、アメリカを象徴する究極のサウンドとして、ギターが話題にのぼったんだ」とグァダニーノ監督は語る。「荒野で焚き火をしながらギターを爪弾いて奏でるシンプルなメロディーが私の頭に浮かんでいた。数週間後、トレントとアッティカスはそのアイデアをもとに力強くて愛らしくそして動揺するほどに美しいテーマ曲をつくってきてくれた」
グァダニーノ監督は続ける。「そして、このゴージャスなメロディーを、深くて力強い場所へと導くウォール・オブ・サウンドにまとめてくれた。彼らとの仕事はとても楽しいよ。彼らは物事をとことん追求し、期待されていることと正反対のことを試してみようとするんだ。たとえば、リーがドラマチックなことを告白するときの音楽は暗いものではなく、甘く愛に満ちていて、彼を受け入れることを観客に求める。本作が描く道徳的な位置づけが、トレントとアッティカスの音楽のなかに多く表れていると感じたよ」
長谷川町蔵 (文筆家)
肉を喰らわば、魂までも。禁断の恋によって解き放れたふたりが巡る80年代アメリカ放浪記。血だらけなのに、不思議と甘酸っぱいのは何故だ。現役(もちろん退役も!)少年少女にぜひ観てほしい異形の青春映画だ。
よしひろまさみち (映画ライター)
人喰いがメタファーなのは一目瞭然。『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)にも似た若きアウトサイダーの純愛を、オトナだけが愛でられる幸せに浸る。“君僕”の父子が本作では全く違う関係になったことも感慨深いわ。
尾崎秋彦 (映画.com)
サッカーW杯・日本代表戦の翌日に鑑賞したが、その興奮がぶっ飛ぶほどの衝撃度。“人喰う人々”の“2人の人喰い”が、どこからきて、どこへゆくのか。クライマックスの“赤”は、どこまでも美しく、切なくて……。人間存在を深く探究する物語はその深度と鮮烈さゆえ、賛否の旋風を巻き起こすはず。映画を愛する人に、観て感じて、語り合ってもらいたい一作だ。
立田敦子 (映画ジャーナリスト)
孤独と傷みというテーマに真っ向から挑み、 カニバリズム・ホラーというスタイルに昇華させた 清涼感さえ感じさせるあまりに美しい青春譚。『君の名前で僕を呼んで』を越えるティモシー・シャラメの最高傑作!
SYO (物書き)
大人の負の遺産を、ぼくらは押し付けられて。いまをこの手に取り返そうと日々もがいてる。だから、二人の痛みと孤独なにおいがわかる。そして願う。この世界に安息があるようにと。鮮血のように清く美しく、あたたかな純愛。映画が居場所を設え、観客が祝福を与える。
山崎まどか (コラムニスト)
痛ましくも愛らしい二人の逃亡者。
この世界に居場所がないと感じる人たちはただただ彼らに思い入れ、そうでない人々も凶暴な獣だけが持つ無垢に震撼するだろう。
大島依提亜 (グラフィックデザイナー)
ルカ・グァダニーノの映画は自由だ。風を吹かせたいと思えば吹き、雨が降ればいいと思えば降る。閉塞感についての映画だが、誰もやった事がない方法で、それがのびのび描かれる。観るものはただ映画に身を委ねれば良い。
堤 日出子 (FILMAGA編集部)
空腹を満たしたい、居場所が欲しい、愛されたい。異端な彼らが欲したのは、至って普通の幸せだった。社会の溝を這うように生きてきた2人が、文字通り「骨まで愛して」くれる人に出会う逃避行の果て、世界は一瞬だけ2人のものになる。乾いた空気に映える血の赤が、頭を離れない。
西川亮(DVD&動画配信でーた編集長)
前知識ほぼナシで観に行ったら、突然主人公が人肉を食べだして驚いた。ティモシー・シャラメも一緒に食べだしてさらに驚いた。マーク・ライランスはキャリア史上最もねちっこい喋り方で、そのキモさにたじろいだ。『君の名前で僕を呼んで』、『サスペリア』のリメイクと来て最新作は人喰いホラー×青春恋愛ロードムービー。ルカ・グァダニーノの頭の中は一体どうなってるのか。