PRODUCTION NOTE
[禁断の死闘]を
目撃せよ!
原作ゲームが世界中で引き起こした本能的でエネルギッシュな現象が、スクリーン上で炸裂するアクション映画『モータルコンバット』。本作では、人間界の運命を託された未熟な戦士たちが、魔界から来た敵との決戦に挑む。主人公のコール・ヤングの旅は、彼が自分の本当の運命を知ったときから始まる。それは、選ばれし戦士たちに仲間入りし、MMAの試合よりはるかに激しい死闘に向けて訓練することだった。事実、地球の運命は彼らにかかっているのだ。
監督兼製作を務めたサイモン・マッコイドはこう語る。「映画化するうえでめざしたのは、原作ゲームを尊重し、熱狂的なファンをもてなしつつ、ゲームを知らない映画ファンにもスリリングな体験を提供することだった。すべての人が最後まで最高に楽しめる作品にしながら、モータルコンバットのものすごくかっこいいキャラクターや強力なエネルギーを映画ファンにも知ってもらいたいと思っていた。願わくば、私たちがゲームに忠実であると同時に、モータルコンバットのDNAを長い間実現されなかった映画という手段で大きく昇華させることができていると嬉しい」
ゲームの世界観に忠実であるために制作陣に課せられたのは、接近戦のみで繰り広げられるふたつの世界の戦いが物語の核にあることを理解し、その情け容赦のない残忍さを積極的に取り入れることだった。「それこそモータルコンバットの鍵となる要素だった」とマッコイド監督は念を押す。「登場人物の背景や動機を知ると魅力が浮き彫りになり、躊躇のない戦いには意味があるとわかる。観る者はお気に入りのキャラクターを選んで、彼らの行く末を気にするようになるんだ」
映画『モータルコンバット』には、スコーピオンやサブ・ゼロなどの登場人物、広範囲におよぶ伝記の物語、象徴的なコスチュームや決め台詞、血まみれのトドメ演出“フェイタリティ”へと導く特徴的な動作、完璧に再現された世界観など、ゲームの人気要素が数多く含まれている。
トッド・ガーナー、マッコイド、E・ベネット・ウォルシュとともに製作を担当したジェイムズ・ワンは、こう説明する。「最初の長編映画が公開されてから25年以上たっているので、新たな映画化作品を求める声がファンから上がっていた。私自身もゲームと映画のファンなので、新作映画を観たいという気持ちがあった。今回、ゲームの世界では続いてきたが、長編映画としては時間が経過したこのシリーズをもう一度見直すときが来たと感じたんだ」
ワンは続ける。「トッド・ガーナーやアトミック・モンスターのチームとともに最初から熱意を傾けていたのは、現在の映画制作技術を用いて、新しい形の映画をつくることだった。同時に、ファンから愛されるファンタジー感や暴力的なアクション、血みどろのゲーム描写にも敬意を払いたいと思っていた。現代的で興奮感をもたらす方法で、ゲームの活き活きとしたキャラクターや物語を大スクリーンで描き、私たちが小さいころに親しんだ映画作品を知らない新しい世代にも楽しんでもらいたいと思ったんだ」
ワンとガーナーは製作初期段階から、どうすれば原作ゲームの歴史を尊重しつつ、新たな切り口を加えられるのか、話し合っていたという。求めたのは、ゲームのファンを満足させながら、新たなファンも獲得できるような切り口だ。ガーナーはその実現の要をこう説明する。「物語を適切につくり上げることが重要だった。1995年のリメイク版をつくりたくはないし、ファンをごまかすようなこともしたくなかった。このゲームをプレイしたことがなくても、没入できるような壮大なストーリー展開が必要だったんだ」
「マッコイド監督は、原作ゲームの世界と登場人物について確固たるビジョンをもっていた」と、世界観づくりの名人ワンは話す。「彼にとっては初めての長編映画だが、長年コマーシャルの世界で働き、視覚的要素を使って物語をつむいできた。それに、この映画の世界を構築するために物語の作家たちと緊密に取り組んでいたよ」
ガーナーがつけ加える。「マッコイド監督の作品を見たとき、視覚的に楽しいだけでなく、30秒で見事にストーリーを伝えていると感じた。僕たちがどうしても彼と組みたいと思った理由のひとつは、彼がゲームの要素を包括し、根拠に基づく現実的なアプローチをもって、このアドベンチャー大作をつくりたいと思っていたからなんだ」
実写化に際し、物語作家とマッコイド監督は、モータルコンバットを知らない人でも物語の展開を理解できるよう、新しくコールというキャラクターをつくり上げた。そうすることで、モータルコンバットの世界観に馴染みがあるとかないとかにかかわらず、観客は新参者のコールの目を通してこの世界を体験することができる。
原案担当のオーレン・ウジエルとグレッグ・ルッソがストーリーの展開を考え、その後ルッソとデイブ・キャラハムが脚本を執筆した。「ゲームに忠実であることが、何よりも先に掲げた目標だったよ」とルッソは振り返る。Xboxにおける世界ゲームランキングトップ50位、アメリカランキングトップ15位に入る、長年のゲームファンであるルッソにとって、それは当然のことだった。物語の構想を考え始めたころ、母親の家を訪れ、自身が12歳のときに創作したモータルコンバットについての絵や物語を見つけたという。「それらを引っぱり出して妻に見せたら、『すごいわね!』と言ってくれたよ」
「子どものころ、ゲームはいつも感情のはけ口になっていた」と、ルッソは続ける。「モータルコンバットは、最もハマったゲームのひとつだった。放課後、友達と一緒にゲームセンターで何時間もプレイしたし、家庭用ゲームも全種類もっていた。モータルコンバットに対する愛はかなり幼いころから育まれたんだ。だからこの映画に携わることは、運命だったと感じているよ」
マッコイド監督はこうつけ加える。「ファンはこのゲームに多くの時間とお金を費やし、注目もしている。登場人物にも気持ちが入っているんだ。大好きなゲームのことなら、隅々まで知り尽くしている。そして物語の執筆者たちは、そのことを念頭に置いて尊重しつつ、新しい観客のことを考慮していった。それこそ、私がこの脚本を気に入った理由のひとつなんだ。強烈なアクションアドベンチャーを際立たせながらも、気持ちや魂の入った人間性も描かれている。キャラクター全員が、それぞれにとって大切に思うことのために戦っているんだ」
『モータルコンバット』の国際色豊かなキャストは、作品がもつ地球全体の世界観を映し出している。それぞれの俳優は、才能があるというだけでなく、ゲームファンが愛してやまないキャラクターを正確に演じられることを理由に、本作にキャスティングされた。マッコイド監督がこう説明する。「この映画では、すでに大人気の登場人物を、ゲームよりもはるかに大規模な舞台に引き上げている。すべてのキャラクターに最大限の敬意を払い、観る人に本物らしさを感じてもらえるようなやり方でスクリーン上に登場させたよ」
製作のガーナーが同意する。「ゲームには、すばらしくバラエティに富んだ登場人物が存在する。めざしたのは、それぞれの民族性を正確にキャストに反映させることだ」
同じく製作のワンが加えて言う。「今日、我々が暮らす世界では、文化や民族の代表性を反映させることが極めて重要だ。このような映画の場合、登場人物をデザインどおりに描き、世界中から俳優をキャスティングするのに勝ることはないね」
この映画の主役陣のなかで唯一ゲーマーたちに馴染みのない、「モータルコンバット」シリーズの新キャラクター、コール・ヤングが物語の口火を切る。天賦の才能をもつMMAファイターである彼は、ケージの中で戦う暴力的で競争の激しい世界で必死にチャンスをつかもうとしている。強い力にかかわる自身の生い立ちを知らないコールには胸に特徴的なドラゴンのマークがある。やがて彼はこのマークのせいで、魔界の刺客たちに狙われていることに気づく。家族を守るため、そしてマークに隠された真実を知るために、コールは危険な旅に出発することを決意する。その旅路で自分を守るための唯一の方法は、秘められた自らの力“奥義”を見いだすことだった。
ルイス・タン演じるコールは格闘技の元チャンピオンだが、今では違法なケージマッチに出場することで、娘のエミリーと妻のアリソンのため食費をどうにか稼ぎ出すという、ぎりぎりの生活を送っている。コールはこの世の何よりも家族を愛しているが、自分の力が不十分なうえ将来も見えず、家族を失望させているのではと悩んでいる。しかし彼はやがて、想像をはるかに超えるほど大きな自身の存在意義に気づくことになる。ドラゴンの形をした奇妙なマークの真実を知ったとき、ほかとは大きく異なるタイプの戦士になるための彼の旅が始まった。
コールの物語のアイデアは自身の生活に着想を得たと、原案と脚本のルッソは言う。「この作品に着手したころ、僕たち夫婦は初めての子どもを迎える準備をしていた。僕自身も良いパパになれるのだろうかなどと考え、父親になるということについて自問自答を重ねていた。そういった恐れなどの感情すべてを、コール・ヤングというキャラクターをつくり出すことに注ぎ込んだんだ」
演じるタンはこう振り返る。「初めてモータルコンバットをプレイしたのは、ゲームセンターだったと思う。ほとんどの子どもたちと同様にアクションと戦闘に夢中になり、家庭用ゲームももっていた。僕はクン・ラオをよく使っていたんだ。夜遅くまでこっそりプレイして、見つかって叱られていた。でも、今の僕の姿を母が見たら何て言うだろうね」と笑う。
タンは、モータルコンバット・ユニバースに対するマッコイド監督の解釈と、それに基づくさまざまな提案に惚れ込んだという。「これぞ映画という物語だが、同時に堅実で心に響き、ドラマチックで暴力的でもある。家族を守ろうとしているなかで、自身の本当の運命を知ることになる父親を演じられて嬉しいよ」
コールの初登場シーンでは、彼は試合の真っ最中である。タンはこう回想する。「とても迫力のあるシーンで、最初に撮影したシーンのひとつだった。冒頭で、コールはMMAの大きな試合に出場し、イアン・ストリーツという男と対戦する。イアンは本物の素手ボクシングの選手で、映画の格闘シーンの振付もしているんだ。だが困ったことに、MMAレスリングの対戦を演技するのはなかなか難しくて、このシーンには3日間ぐらい費やしたよ」
このシーンの最後についてタンはこう説明する。「コールと娘は、シカゴに模してつくられたオーストラリアのポートアデレードにあるMMAの試合をおこなう巨大な倉庫から出てくる。ふたりが座ってアイスクリームを食べていると、突然雪が降り出す。シカゴの夏の夜に、小さな雪の結晶が空から舞い落ちてくるんだ」と微笑んで話した。
何が起こっているのかまだ理解しないうちに、コールは見知らぬ男と接触する。状況を完全に把握し、コールに迫る大きな危険を察知しているかのようなこの男の名は、ジャックスである。メカッド・ブルックス演じるジャックス(本名:ジャクソン・ブリッグス)は、堂々とした体躯をもつ、頑固な米軍特殊部隊の少佐だ。昔から人を守る役割を担い、常に自分のことよりも周りの者たちの安全を考えてきたジャックスは、今回も接近する雹(ひょう)の嵐を受け止め、コールに安全な場所へ逃げるように命じた。
ブルックスはこう話す。「長年ずっとこのゲームの大ファンで、脚本を読んだときは大興奮だったよ。ジャックスを演じられるなんて、夢が叶った気分だよ」
キャラクターを熟知していることこそが、俳優としてのチャレンジをもたらしたとブルックスは話す。「ゲームのキャラクターを演じることの面白さは、超人的に見せる一方で、人間としてのリアルさを出すというむずかしいバランスをとらなくてはならないことにある。このことを理解しておく必要があったんだ」
役の全体像をつかむためにある方法を使ったと彼は説明する。「ヘミングウェイの格言である『長い間、武装した人間を狩り、それを好む者は、ほかの獲物で手を打つことはほとんどない』という言葉について考えたんだ。特殊部隊出身のジャックスは、雑魚に興味はない。そこで何を狙うのかというと、怪物なんだ。化け物を狩るなら、自身もある意味怪物にならなくてはならない。彼は殺し屋だ。それを担うことへの義務感を演じるために、自分の内面を見つめる必要があった。そこには、自分や周りの安全を確保するためにやるべきなのだという思いや割り切りがあるはずだからね」
彼自身も“選ばれし者”のひとりであるジャックスには、コールと同じようなドラゴンのマークがある。モータルコンバットの謎に隠された真実を解き明かすことに尽力してきた彼は、必要ならば大義のためにわが身を犠牲にする覚悟ができている。コールを避難させたときも、ジャックスは普通の人間なら立ち直れないほどの大怪我を負っている。だが、彼にはまだやり遂げていない仕事があった。
ジャックスにはソニア・ブレイドを特殊部隊へ入隊させるという任務がある。選ばれし者のドラゴンのマークはないが、聡明で実直な兵士であるソニアは、モータルコンバットの背景にある神話について何年にもわたり調査をしている。ナイフを操り、瀕死の一撃を食らわせる力をもつソニアは、まさに真剣で決意も固い。マークに隠された真実の解明に身を捧げる彼女は、あと数人いる人間界の戦士たちを探し出そうとしていた。
エネルギッシュなソニアを演じるジェシカ・マクナミー。ゲームについての知識ゼロでこの役を演じることになった。「とても勉強になったわ。学ぶことが本当にたくさんあった。ゲームやユニバース全体、登場人物全員について、多くの資料を読んだり、ポッドキャストを聞いたりしたのが、大きな助けになった。また、ソニアの生い立ちや、カノウへのライバル心についても学んだのよ」とマクナミーは話す。カノウとの経緯を知ったことが、感情の昂りを見せる演技に役立ったという。「脚本を読んだだけでは、ソニアがカノウに対してどれほど強い恨みを抱いているかわからなかったと思う。彼女は心からこの男の死を望んでいる。それ故に、ふたりの対立関係を演じるのがとても面白かったわ」
そしてソニアにとって悩ましい問題が立ちはだかる。彼女は、カノウが殺人を犯して数少ない選ばれし者たちの仲間入りをしたことが許せない。「カノウのせいで、彼女はジレンマに苦しむ。死を願うほど恨んでいる男なのに、世界を救うためには彼が必要なのよ」
コールが、モータルコンバットに出場するために訓練を受けることになるライデンの寺院。彼がそこにたどり着けるよう促すのは、ソニアと傭兵のカノウである。そのためソニア役のマクナミーは、コール役のルイス・タンと不愛想で罪悪感の欠片もないカノウを演じたジョシュ・ローソンとかなり長い時間を一緒に過ごした。「とてもカッコよくて面白い人たちよ。三人でセットのなかで大笑いしていたから、もしかしたらほかの人の撮影を邪魔していたかもね」と彼女はにやりと笑う。「だけど、ふたりとも仕事に対する姿勢はとても真剣。ルイスの取り組み方はありえないほどすばらしかった。ジョシュのことはずい分前から知っているけど、間違いなくクラスにいたお調子者タイプ。だから、彼とはいつも楽しく仕事ができるの」
その図々しい性格のおかげで一定のファンを獲得しているカノウを楽しんで演じられたと話すローソンは、次のように考察する。「カノウは憎めない奴だと思うんだ。黒龍会の傭兵で、ご都合主義なところもある複雑な男だ。いい奴なのか、悪い奴なのかつかめない。敵意むき出しで、利己的で欲深く、ユーモアのセンスには悪意がある。これらすべての要素が、彼を面白くしているよ」
十分な金さえもらえれば、誰にでも忠誠心を見せるカノウは、ソニア・ブレイドとは真逆の性格。モータルコンバット・ユニバースで有名なふたりの対立が、この映画で激しく火花を散らしている。
子どものころにプレイして、このゲームをよく知っているというローソンは、皮肉なことにこう打ち明けた。「ソニア・ブレイドやライデンは知っているのに、カノウでプレイしたことはなかったんだ!」 だが、それ故に気負わなくてよかったと話す。「カノウという人物に対する先入観がない状態でこの役に出会い、体当たりで演じることができた。とても楽しかったよ」
3人が寺院の近くまで来ると、リュウ・カンに迎えられる。彼は、ライデン率いる人間界の戦士たちのチームの要となる戦力である。立派な忠誠心をもち、モータルコンバットへの準備に人生を捧げてきたリュウ・カンは、魔界の敵から人間界を守るために突き進む者たちの信頼できる案内人であり、助言者でもある。少林拳の使い手で僧侶の彼は、モータルコンバットについて知るべきことをすべて知っている数少ないひとりで、既にライデンの信頼と支持を得ている。自身の“奥義”、つまり真のパワーを解き放っているため、火を繰り出し自由に操る力を身につけている。彼は映画の主人公たちに助言し、それぞれが真の潜在力を引き出せるよう導いていくのだ。
神秘的な雰囲気を纏うリュウ・カンを演じるのはルディ・リン。「子どものときにこのゲームで遊び始めたんだ。初の映画版『モータルコンバット』を観たとき、ロビン・ショウに強い憧れを抱き、学校をさぼって2作目の映画を観に行ったほどだった。そして今、僕は同じキャラクターを演じているんだよ」と彼は微笑んだ。
「リュウ・カンは、映画のなかの精神的な拠り所となっている」とリンは指摘する。「彼は美しい心の持ち主だ。ライデンですら人々が神話を忘れてしまったこの世界に不信感を抱いているのに、彼は人間界の戦士たちのことを誰よりも信じている。ライデンは戦士たちと距離をとり始めるが、リュウ・カンは変わらずに信じ続けている。コールのような人物を信頼することが、正しかったと証明されるかどうかは、今はまだわからないけどね」
不死身の神で人間界を守護するライデンは、モータルコンバットの武術大会に参加させるため、歴代の戦士たちを招集し訓練してきた。魔界に9連敗しているライデンは、今回のチームにそれほど期待していない。
この雷神であるライデンを演じる浅野忠信はこう話す。「ライデンは地球のために戦う者の到来を待ち望んでいた。常に次のモータルコンバットに備える彼にとって、それはとても重要なことだ。しかし、敵が強すぎたし、自分の人選も良くなかったため、今はもうあきらめるべきかもしれないと思っているんだ」
どこか堅苦しいこのキャラクターの役作りのため、浅野は台詞の行間だけでなく、脚本のすべてを読み込んだと言う。「脚本を何度も繰り返し読むことは、僕にとっていちばん大事なことだ」と彼は話す。「自分の台詞はもちろんだが、ほかの人の台詞にもたくさんの重要な感情が隠れている。ライデンは物静かで穏やかな性格だが、時々叫んで感情を吐き出すことがある。こういうシーンから自分が演じるキャラクターを理解できるが、ライデンについてほかのキャラクターが話しているシーンからもわかることがある。脚本を読むとき、このような自分の役以外の細かい情報がとても大切なんだ」
ライデンが全幅の信頼を寄せている人物のひとりに、クン・ラオがいる。歴代の人間界の偉大な戦士のひとり、グレート・クン・ラオの末裔である。勇敢で誠実な彼もまた、ライデンの最強戦士のひとりで、勘が鋭く、カミソリで縁取られた帽子を超能力で操り、強敵の少林拳の達人を倒している。
多くの共演者たちとは異なり、マックス・ファンはゲームを知るより先に、映画「モータルコンバット」シリーズに出会ったという。筋金入りのファンである彼はこう話す。「僕がクン・ラオを演じることになったと聞いたとき、たまたま中国で武道の練習をしていたんだ。この役をもらえて、本当に夢のような気分だったよ」
マックス・ファンは役作りに没頭し、あるユニークな視点にたどり着いた。「脚本を読んだとき、すぐに昔ながらの西部劇のようだと思った。かっこいいキャラクターたち全員が、決着の場に集まるんだからね」と彼は説明する。「とくにクン・ラオは、寡黙で自分の殻に閉じこもり、象徴的なつば広の帽子をかぶっている。ほぼカウボーイだと感じたよ」
久々にゲームをプレイし、クン・ラオの戦闘スタイルを頭に入れたマックス・ファンは、衣装が完成する前から帽子を使った練習方法を考案していた。「実はダンボールを帽子の形に切り、練習道具にしていたんだ。いくつかの新しい動きも編み出した。楽しかったよ」
日本の組織である白井流の伝説の忍者で歴代最強の戦士ハサシ・ハンゾウ、別名スコーピオン。製作陣は、彼が登場しない映画『モータルコンバット』をファンの前に差し出すわけにいかないとわかっていた。だが、ライバルの殺し屋ビ・ハンに惨殺され、冥界に追放された彼の魂は、永遠の炎に囚われたままである。死から解放されるチャンスを待ちながら、彼の頭にあるのは復讐することだけだ。
モータルコンバットのファンの世界を知らない真田広之は、出演が決まった直後にパソコンを開き、ゲームや自分が演じるスコーピオンについて検索してみたという。さらに、実際にゲームを体験してみる価値がありそうだと感じたと話す。「別の映画のロケ撮影のとき、ゲームセンターに行ってこのクラシックなゲームを見つけたんだ。コインを入れてスコーピオンとサブ・ゼロ(旧名ビ・ハン)のことを知るために、彼らを探してプレイした。もちろん、毎回負けてばかりだったよ」と真田は笑いながら話す。「それでも、このゲームのストーリー、背景、キャラクターについて学ぶためにプレイし続けた。とても楽しかったよ」
すぐにスコーピオン役を受け入れられたと彼は話す。「かっこいい男だ。武器や格闘スタイルが気に入った」と真田は話す。「でも、スコーピオンという男を正しく演じられるかについては、少しプレッシャーを感じたね」
しかし、そんなことを心配する必要はまったくなかった。このキャスティングは運命づけられていたようだ。「この役のオファーを受ける前に、ネット上のファンたちがフォトショップなどを使って、僕の顔とスコーピオンの体をコラージュしていたんだ」
人間界の住人たちを締めくくるのは、マチルダ・キンバー演じるコールの娘エミリーと、ローラ・ブレント演じるエミリーの母親でコールの妻アリソンである。コールと同じく、ふたりはこの映画のためにつくられたキャラクターである。アリソンは頭の回転が速く、包容力があり、愛情深い母親だ。そして年齢よりもずっと賢いエミリーは、父親のMMAの試合を毎回観戦しているからか、父親を強く信じている。勝てそうにないときでもコールが戦い続けられるのは、彼女のおかげなのだ。
人を欺き、強い力をもつ魔界の魔術師シャン・ツン。彼が率いる魔界は、モータルコンバットの戦いで、人間界に9連勝中である。だが、この事実にはただの勝利宣言よりも実はもっと重要な意味があった。神々に呪いをかけられたシャン・ツンは、急速に老いていく身体を維持するために人間の魂を吸収しなければならないのだ。
この役を演じたチン・ハンは、魔術師シャン・ツンについてこう説明する。「知性あるなにかによって生命がつくられたと考えるインテリジェントデザインと進化の極致に達したキャラクターだ。シャン・ツンには変身能力だけでなく、人間の魂を吸収する力もある。本人に気づかれることなく、人間の体内に入り込み、モータルコンバットの全戦士の必殺技を手に入れることができるんだ。つまり、弱点を取り除いた彼らの長所だけをすべて手に入れられるということだ」
しかし今は状況が違う。魔界の荒廃につれ、自らの衰えが表面化してきたシャン・ツンは、一層必死になって人間界を手に入れようとする。魔界の者たち、そして自分自身を救うためなら、どんな邪悪で腹黒い手を使うこともいとわない。
ハンは、歴史あるこのゲームに対する映画の解釈を気に入ったという。「この映画は、ゲームの本質やオリジナル映画の主旨を保ちつつ、それを物語の足掛かりとして起用することで、スーパーヒーロー対アンチヒーローという現代の構図にも通用するようにしている。僕としては、シャン・ツンが地球を征服し自身の帝国を築くことに躍起になる理由が描かれていることを興味深いと感じたんだ」
神の最も献身的な部下のひとりは、凶暴で何をするかわからない、飢刃一族とエデニア人のハーフ、ミレーナだ。彼女は自分の創造主シャン・ツンに忠実に仕える戦士であり、情報屋である。2枚刃の釵(さい)とテレポート能力を巧みに操り、敵のまわりを敏捷に動く彼女は、人間界の戦士たちを全滅させるためなら手段を選ばない。
ミレーナを演じたシシィ・ストリンガーは、ゲームにおけるキャラクターの背景を加味し、多大なる敬意をもってこの役に取り組んだ。「ゲームファンはミレーナに大きな親しみを感じている。だから、彼女がただの殺人マシンとして描かれるのを嫌がるだろうと思ったの」とストリンガーは言う。「彼女にはシャン・ツンの側で生きていきたい思いがある。役作りの際にゲームファンに教えてもらったことだけど、彼女の人生にも感情的な面があるのよ」
ミレーナの特徴について、ストリンガーはこう説明する。「取り外すことができる恐ろしい顎からは、飢刃一族の鋭利な歯とぬるぬるとした舌が出てくる。そして山吹色の目は刺すように鋭いわ。気の毒なことに、彼女は美しい姫キターナのクローンとして生まれたけれど、飢刃一族の血のせいで醜い容姿になってしまった。でも、そのおかげで強い力をもっているわ」
しかし、シャン・ツンにはべる最強戦士はいまだ、残酷無慈悲な殺戮マシン、サブ・ゼロである。彼は魔界に仕え、氷を操り相手を殺害する。かつてビ・ハンの名で知られていた彼は、中国の忍者組織“燐塊”(リンクェイ)に所属する冷酷な殺し屋なのだ。訓練によって得た殺傷能力は高く、明晰な頭脳を駆使して獲物を操る。人間界に残る戦士たちを皆殺しにし、魔界を勝利に導くため、彼が今狙う標的は、コール・ヤング、そして彼にモータルコンバットに備える訓練をさせようとする者たちだ。
ゲーム界において最も伝説的なアンチヒーローのひとり、サブ・ゼロを演じたジョー・タスリムは、ネットで情報収集している際にサブ・ゼロの動機を見いだし、それを役作りの要にしたという。「モータルコンバットの武術大会だけでは、動機として物足りないと感じた。もっとほかに何かある気がしたんだ」と話すタスリム。「『燐塊を去る者はいない』という一文を見つけたとき、ピンときたよ。これが動機だと感じた。彼自身が殺す相手に恨みを感じているわけではない。燐塊に入ったなら、今後ずっと所属するということ。もし脱退するなら、それは死を意味する。彼が悪いわけじゃないんだ」
ビ・ハンの不名誉な行為により、サブ・ゼロとなった彼は、目の前に現れる人間界の戦士全員を氷を使って激しく痛めつける。タスリムはこう話す。「サブ・ゼロの登場シーンについて、マッコイド監督はすばらしい構想を練っていた。壮大だったよ。観客は、サブ・ゼロが登場する前から彼の存在感を感じ、彼のもつ力のすごさがわかるだろう。すばらしい入り方だと思うよ」加えて、メル・ジャーンソン演じるニタラ、ネイサン・ジョーンズ演じるレイコ将軍、ダニエル・ネルソン演じるカバルも、シャン・ツンに忠誠を誓うキャラクターだ。
マッコイド監督は、キャスト一人ひとりの熱意ある取り組みに拍手を送り、こう言う。「俳優たちは全員、毎日トレーニングに励み、全力で演技をしてくれた。毎日トレーニングしなければ到達できない域までもっていってくれたよ。そのうえ、各自がそれぞれの役にぴったりと合うリアルな存在感をもっていた。そして、伝説的なキャラクターたちに命を吹き込むために熱心に取り組む一方で、皆、本当に仲が良かった。すばらしいファミリーだったよ」
戦士たちが繰り広げる一か八かの戦いで見られるのは、熾烈な格闘、容赦ない残忍性、血まみれの描写だ。これらモータルコンバットの特徴を人気キャラクターたちに表現させるため、製作陣はスタントコーディネーターのカイル・ガーディナーと格闘シーン振付師のチャン・グリフィン、そして彼ら率いるチームにすべてを委ね、格闘シーンの底上げを図った。経験豊富な武道の達人も含まれるキャストは全員、きつい訓練にも前向きに取り組み、積極的にこのチャレンジを受け入れた。
マッコイド監督は、ひとつの戦いのたびごとに、特徴の異なる格闘にすることを望む一方、観客にはゲームをプレイしているかのように、地に足の着いた格闘を実感してもらいたいとも思っていたという。「戦いを通して物語が展開し続けること、また感情が最も昂るシーンを通して登場人物の性格が浮き彫りになる描き方が必要だと感じた。カイルとチャンは、戦い自体が一つひとつ特別なものとして際立つように、見た目や雰囲気をつくり上げるというすばらしい仕事をしてくれた。撮影では広角レンズは一切使わずに、それぞれの格闘シーンを間近で撮っていった。脚本から浮かび上がってくる戦いのシーンに具体的な計画が立たないときは、ほかの格闘技映画をヒントにするのではなく、何度もゲーム作品を見直して、それを映画シーンに昇華できないかと考えていったんだ」
スタントチームはアデレード・スタジオ内の空きスタジオに段ボールで壁を作り、綿密に練ったアクションをもとにキャストたちの指導を始めた。また、オーストラリア人の武術の達人ニノ・ピラが、キャストとともに撮影に向けた準備に取り組んだ。そこでピラが気づいたのは、キャスト全員にひとつの共通点があることだった。それはこの映画に取り組む決意である。
ミレーナを演じるシシィ・ストリンガーは、ブリスベンで週に4~5回武術と格闘技のトレーニングをした後、撮影のためにアデレードにやって来た。また、おそらく主要キャストのなかでスタントや格闘の経験が最も少ないソニア・ブレイド役のジェシカ・マクナミーは、ガーディナーと彼のチームに、できる限り自分でスタントを演じたいとはっきり伝えたという。彼女はすべてのリハーサルに積極的に参加し、十分すぎるほど長い時間をかけて取り組んでいた。
ガーディナーは、アクション映画の伝説的存在である真田広之と一緒に仕事ができたことは夢のようであり、真田について究極のプロフェッショナルだと感じたと話す。与えられた約2週間という短い準備期間で真田は、ガーディナーが名づけた“35手の打撃”という動きを含め、演じる役に必要なことをすべて覚えたという。
ガーディナーが最もてこずったのは、ジョー・タスリムのスタント役を探すことだった。インドネシアの柔道チームで15年間の経験があるタスリムと同等の高い技能をもち、彼のスキルに合わせられるスタントマンを探すのは至難の業だった。
ベテランの格闘シーン振付師を父にもつルイス・タンは、コール役を演じることで、幼少期から続けてきたトレーニングを活かせるチャンスだと気づいたと話す。「コールはMMAの元チャンピオンなので、演じた格闘スタイルは、キックボクシングやムエタイの試合で僕が学んだことと似ていた。MMAは一般的に、それらに柔道や柔術、少しのレスリングが加わって成り立っているが、コールの攻撃スタイルは、肘打ちや膝蹴り、少しの柔道を組み合わせたムエタイやラウェイに近い。格闘シーンのコーディネーターたちは、僕が既にできることに近い動きを考えてくれたが、最終的に混合スタイルやフリースタイルの動きになったよ」
タンは、これまで演じたさまざまな役から学んだことがあると話す。「カメラはスピードとアングルを捉えることはできるが、パワーを捉えることはできない。このことに演じ方を適応させる必要があった。僕は6歳のときからそのための訓練を受けてきたが、この映画では自分が既に知っていること以外にいくつか覚えなくてはならないことがあった。例えば、トンファーの使い方だ。僕はヌンチャク、刀、こん棒の扱い方は知っている。でも撮影当日にセット内でトンファーの使い方やいくつかの動作をマスターしなくてはならなかったとき、既に身についていた技術に助けられたんだ。このベースになる経験がなければ、到底できなかったと思ったよ」
ガーディナーはこう話す。「キャストには俳優として才能豊かな人が集結したというだけでなく、世界有数の武術の達人も含まれていたことが非常に幸運だった。ルディ・リンの武術スタイル、ルイス・タンのスタイル、マックス・ファンのワイヤーなしで宙返りやアクロバットをする能力など、みんな信じられないほどすばらしかった。また、ジョー・タスリムのスピード感と激しい動きは見ていて楽しかったよ。彼はこの映画のなかで最も邪悪なサイコパスを演じたけど、実際は世界でいちばんやさしくて最高の男だよ。その差は、彼が名優であることの証拠だね」
『モータルコンバット』の撮影は、南オーストラリア州の海岸沿いにある州都アデレードとその周辺でおこなわれた。マッコイド監督はこの地に撮影のジャーメイン・マクミッキング、美術のネイマン・マーシャル、衣装のカッピ・アイルランドを含む、才能あふれるクリエイティブチームを招集した。「私にはとても具体的なビジョンとスタイルがあった。ネイマン、ジャーメイン、カッピといった力量のある人々を集めてそのビジョンを伝えれば、私の仕事は半分終わったようなものだ」とマッコイド監督は言う。「彼らのような腕の立つ人々の仕事ぶりを見るのが好きだった。楽しかったよ」
マーシャルはこう語る。「マッコイド監督に会ったとき、僕らはすぐに意気投合した。でも、監督にこう伝えたのを覚えている。『僕はゲームをやらないし、モータルコンバットのことも知らない。だが、本格的で現実に根ざしたセットを創作し、そこから展開していく。これが僕のアプローチだ。もし監督がゲーマーを探しているのなら、僕は適任ではないかもしれない』とね。すると彼は僕をじっと見てから『良い提案だ』と言ったんだ。そこから、この映画の美術デザインについて取り組み始めたよ」
「一緒に仕事をして良い時間を過ごすことができた。マッコイド監督はいつでも提案に耳を傾けてくれたし、僕も臆することなく提案していたからね」とマーシャルは笑う。「明確なビジョンがあるうえで、さらに良いアイデアや面白いアイデアを受け入れられる人と一緒に働けるのは、本当に嬉しいことだよ。ふたりとも、モータルコンバットの歴史を取り入れつつ、現代の見た目と感覚をもって、物語を展開させたいと思っていたんだ」
映画の世界観に対する共通認識があることに加えて、ロケ地が大きなヒントを与えてくれたと製作のガーナーがつけ加える。「ほかではないような撮影場所をたくさん見つけることができた。これまで南オーストラリア州では、この規模の大作の撮影がおこなわれたことはなかった。だから、この州の魅力を紹介することができたよ。この映画をつくり上げるうえで大きな助けとなった、多様な景色や地形がたくさんある場所だよ」
「オーストラリアでの撮影といえば、思い浮かぶのはシドニー、ブリスベン、メルボルン、ゴールドコーストだ」とマーシャルは言う。「だから、南オーストラリア州に何を期待すればいいのかわからなかった。だが、この映画をアメリカなどアデレード以外の場所で撮影したとしたら、これほど骨のあるリアルな作品にはならなかったということにすぐに気づいたよ。このロケ地はすべての要件を満たしてくれていたんだ」
観客が映画の世界とつながれるようにするために、マッコイド監督が重きを置いたのは、できるだけカメラで撮影をすることだった。「大量の視覚効果を使った映画は、観客を置いてきぼりにすることがあると気づいた」とマッコイド監督は言う。「もちろん、視覚効果を多く使ったすばらしい作品はある。でも、私は信じられる作品をつくりたい。そして私が信じられるのは、キャラクターや世界観のリアルさを感じられる描写だ。だから今回、多次元的で異世界感が少しある映画にしたいと思う一方で、確かなリアルさをもたせたかった。火や氷を扱うこの映画では、実際の火や氷の動きを用いて、圧倒的な規模で面白くしたいと思っていたよ」
多くのロケ地のなかのひとつ、彼らが拠点にしていたアデレードから112キロ(70マイル弱)離れた町ブラック・ヒルにある黒花崗岩の採石場ブラック・ヒル・クウォリは、魔界と壮大な戦いの舞台となった。マッコイド監督がこう語る。「閉鎖された炭鉱の底で魔界を撮影した。そこは真っ黒で壮観だった。炭鉱の底で撮影しようなんて誰も思わないけど、高性能のウルトラビスタレンズを携えて降りて行き、衣装をまとったすばらしい俳優たちがこの現実離れしたロケ地に立った途端、そこは別世界になるんだ」
ロケーション統括マネジャーのジェイコブ・マッキンタイアはこう言う。「このロケ地を使うにあたり苦労したことのひとつは、セットだと感じさせないようにすることだった。あまりにも絶妙な位置に完璧につくられていたからね。場所自体が、格闘シーンの幻想的な背景をつくり出していたんだ」
一方、アデレードのポート・リバーに浮かぶガーデンアイランドには、あらゆる種類の船が廃棄されている世界最大級規模の船の墓場がある。この場所は、コールが見つけることとなるソニア・ブレイドのトレーラーハウスがある荒廃したボートヤードとして使われた。
「初めは、ソニアは農家に住んでいるという設定だった」とマッキンタイアは話す。「制作を進めていくなかで、伝統的な農家の家屋を見学したのだけれど、どうもピンと来なかった。ソニアには、郊外の人里離れた場所にほぼサバイバルモードで住んでいるという雰囲気を望んでいた。そこでまったく違う方向性を探り始め、ドックに行きついた。古いボートヤードはどうだろうと話していたとき、後ろに巨大な発電所がある小さなボート置き場に出会ったんだ。ソニアのトレーラーハウスは、周辺を発電所が取り囲む古いボートがあるエリアの真ん中に建てられた。水辺にあるので、トレーラーハウスは夜になると幻想的に見えた。また、ソニアとカノウの象徴的な対戦もここでおこなわれたんだ」
美術チームは、古代日本の森、魔界、ライデンの寺院、そしてコールが出場するMMAの試合がおこなわれる倉庫、ハンバーガーショップや廃墟となったデパートのセットが建ち並ぶシカゴに見せた現代の街など、撮影シーンに必要な環境をつくり上げた。
製作のガーナーはこう言う。「美術チームにとっては、非常に課題の多い難しい映画だった。ネイマンが指揮を執ってくれて本当に幸運だったよ。雰囲気や色彩が大きく影響する映画だったが、美術チームはそれらすべてに応える仕事をしてくれたんだ」
小道具づくりの名人リサ・ブレナンとそのチームが制作した数々のすばらしい小道具のなかからいくつかを紹介する:
・サブ・ゼロの氷の刃:最終決定に至るまでに、10以上のコンセプト設計がなされた。つららに着想を得ている。光を当てたときに鍾乳石に似た氷の表情が現れるよう、樹脂のなかに食品ラップのようなプラスチックフィルムを入れて作られた。
・レイコ将軍のハンマー:マーシャルのアイデアにより大槌とした。ブレナンは古い宝石職人のハンマーを参考に、頑丈な鉄で作り、木の柄を付けて、革でできた有刺鉄線を巻きつけた。
・ソニア・ブレイドのナイフコレクション:南オーストラリア州バロッサ・バレーにあるナイフ工房ガードナー・ナイブスによる手作り。ラダーまたはティアードロップに流水の模様に似た特徴的なダマスカス模様が入っている。
小道具部門で予想外の人気を博したのは、ソニアとカノウの対戦で重要な役割を担う小人のノームである。チーム内でいちばん上手にノームを描ける者を決めるコンテストをおこなった結果、コンセプトアーティストのレイン・ハートが最終的なデザインを考案した。それを粘土で彫刻し、2体目は安全のためにゴムで作成された。
『モータルコンバット』の登場人物は、世界中のファンが待ち望む象徴的な存在である。だからこそ、制作陣、特に衣装デザイナーのカッピ・アイルランドは、彼らの見た目が重要な鍵となることを理解していた。製作のガーナーはこう語る。「カッピを迎えられて本当に幸運だった。本作の衣装は、想像をはるかに超えた出来だった。あまりにも有名な作品に、現実の世界でも通用する解釈を加えるのは至難の業なんだ。カッピはリアルさと強靭さによって、全編を通して見られる地に足のついた感覚をもたらしてくれた」
アイルランドは、自身のデザインの美的感覚についてこう語る。「モータルコンバットのファンタジー要素を生かしながら、地に足のついた本能的な感覚をもたらしたかった。本物の布地や素朴な皮革、コットン、そして金属を使ったけど、光沢があるものや新しいものは避けたの。スーパーヒーロー映画の見た目や感覚を避けることが重要だと感じた。たとえ、超現実的で幻想的な世界観であっても、衣装にはリアルな感覚を求めたわ」
「実を言うと、ゲームについてはあまり知らなかった。でもネット上でシリーズ作品すべてを調べることができたわ」と彼女は続ける。「最初から現在に至るまでの11作のゲームすべてのさまざまな衣装を見たわ。さらに、背景となる物語も多く読み、登場人物全員について膨大なリサーチもおこなった。多くの知るべき情報があったし、12歳の息子からもいくつかアドバイスをもらったわ。この仕事を引き受けたとき、息子から褒め言葉をもらったのよ」
このシリーズは熱烈なファンがいることで知られているため、アイルランドにとっては楽しくもあり、少し気後れする挑戦でもあったという。「ファンにとって正しいことをしたかったし、私たちがつくり上げたものをファンに楽しんでもらいたいと思った。彼らはとても情熱的で、それぞれにお気に入りのキャラクターがいることが、気後れする理由だわ。でも、シリーズのことを何もかも知っている観客がいるなんて、とても面白いことでもあるわ。『スコーピオンは本当にこれを着るだろうか。ファンはそれを喜んでくれるだろうか』と考えることが、決断を後押ししてくれる。選択肢が出てくるたびに、自分にそう問いかけたわ。それが最終的な結論に私たちを導いてくれたの」
アイルランドが最初に取り組んだのは、『モータルコンバット』のユニバース全体で最も象徴的なキャラクターだった。「初めにサブ・ゼロの衣装に取り組んだの。でも彼の衣装をどんなものにすればいいのかいまいちつかめていなかったから、とても難しかった。最終的に、伝統的な中国の模様や、何世紀も昔の鎧を使うことにしたわ。そこが決まったら、次に重要なのは、マスクやフードだった。そこで、まるで彼自身の筋肉であるかのように見えるたくましい筋肉を表現することにしたの。ジョー・タスリムが快適に装着できるように、弾力性のあるウレタンで作ったのよ」
ライデンの帽子について、アイルランドはこう話す。「彼の帽子の制作ではさらにハードルをあげることに決め、オリジナルの伝統的なデザインは保ちつつ、わらではなく、金属のような見た目にすることにした。そこで課題として立ちはだかったのは、重すぎない帽子を作ること。最終的には、磨けば金属の帽子のように見える、メタリック要素が入ったグラスファイバーを使うことにしたわ」
クン・ラオとリュウ・カンについてアイルランドはこう語る。「ふたりとも、少林寺の僧侶をベースにした伝統的な中国スタイルにした。でもクン・ラオの帽子は実は韓国スタイルなの。彼の衣装は中国にアイデアを得た官服と翡翠のついたレザーベルト。鎧は腕と肩を尖らせたものに決定した。もちろん、クン・ラオの帽子もとても重要だった。そこでマックス・ファンにとって動きやすく、邪魔にならない重さの伝統的な帽子の再現に取り組んだわ」
同様に、「シャン・ツンの外見は、古代中国の鎧をもとに作ったの。胸当てと肩に苦しみもがく魂をデザイン・彫刻し、鋳型を作成した。大きな威厳のある彼の衣装には、ゴールドや中国の伝統的なスタイルの生地を多用したことで、手の込んだ、精巧な仕上がりになっている」とアイルランドは話す。
「スコーピオンについても似たようなやり方を採用した」と彼女は続ける。「伝統的な日本の侍の鎧をベースにしつつ、肩当てには鎖の先にクナイという鋭い両刃手裏剣を付けるなど、少し工夫を凝らしてみたの」
カノウの衣装について、アイルランドはこう話す。「軍歴をベースにし、同時に、牛飼いや農夫にも見えるような革のクロスベルトを装着した。袖を切り取ったシャツ、オーストラリアの有名なブランドストーン社のサイドゴアブーツ、それにカーゴパンツを着せたら、オーストラリア気質の武骨な男の出来上がりよ」
「一方、ジャックスはかなりモダンで都会的にしたかった」と彼女は続ける。「彼にはかっこいいデザイナージーンズに少しだけ軍隊調を加味し、がっちりした黒いブーツを履いてもらった。ソニア・ブレイドは女性的なシルエットにしたいと思ったけど、同時に彼女はタフな女性でもなくてはいけない。彼女のユニフォームはタンクトップにミリタリーパンツ、そして手袋ね。ジャックスやカノウと似通った世界観だけど、女性らしさを保った彼女自身のスタイルがあるのよ」
ヘアメイクデザイナーのニッキ・グーリーの行き届いた目配りとブラシによって施されたメイクを紹介する。
・カノウのタトゥは40分かけて描かれ、3~4日そのまま使用したのち、再び描き直された。
・メカッド・ブルックス自身のタトゥは毎日カバーされ、ジャックスのためにデザインされたタトゥが描かれた。
・ビ・ハンのオリジナルデザインコンセプトはロングヘアだったが、ジョー・タスリムには合わないため、グーリーはジョーの髪を短くカットした。
・サブ・ゼロ役のタスリムは淡青色のコンタクトを付けた。
・象徴的なドラゴンのマークは、少し肌から浮き上がるようにしたため、焼き印のように見える。
・カノウの悪友カバルの腕のやけどを毎日描く代わりに、“やけどの腕”の袖を制作した。
・特殊メイク監修のラリー・ヴァン・デュインホーフェンは、ロックバンド“キッス”のジーン・シモンズの舌に着想を得て、ミレーナの舌をデザインした。
・常にミレーナのシリコーンの舌を装着しなくてはならないシシィ・ストリンガーのために、デュインホーフェンはマーカーペンのふたのような粘着装置をデザインした。そのおかげで、ストリンガーは舌を動かすときも、正しい位置に保つことができた。
マッコイド監督は、物語のテーマを伝えるために、有名な作曲家ベンジャミン・ウォルフィッシュを迎えた。ウォルフィッシュは、躍動感にあふれ、感覚に訴えかける本作のアクションを、心躍る音楽を通して強烈に表現している。
『モータルコンバット』への参加を依頼されたとき、ポップカルチャーに深く根付いたとても印象的なゲームシリーズのために作曲をするんだという大きな責任を感じた」と、ウォルフィッシュは言う。「最初に考えたのは、テクノシンドロームで何かできないだろうかということだった。90年代のダンス音楽の良さを発掘し、膨らませて、フルオーケストラの音楽に作り直せないかと考えた。それが最初のステップとなった。ゲームとオリジナル映画の熱心なファン層を完全に取り込み、オリジナルへの敬意と愛情を込めたメッセージを送り込むいちばん直接的な方法だ。そこから、登場人物と物語のテーマを発展させ、友人サイモン・マッコイド監督の描く規模感や純粋かつ野心にあふれたビジョンと音楽を合体させていく。この映画に参加できて本当に光栄に思っているよ」
最後に、観客にはリラックスして、この映画体験を楽しんでほしいとマッコイド監督は言う。「残虐性があり、アクション満載、強烈な戦いにあふれ、そして熱狂的なファンのための秘密の仕掛けもたくさんある。ゲームを知らない人も登場人物を存分に楽しむことができると思う。陽気なカノウ、冷酷なサブ・ゼロ、崇高な戦士ジャックス、エネルギッシュなソニアがいるなか、コールが案内役として、このクレイジーで、途方もない、強烈にエキサイティングな世界へと導いてくれるだろう」