本作での呪文は、先行する陰陽師作品と区別するため、神道の祝詞、密教の真言は使わず、陰陽道と道教、民間に伝わる和語の呪文等をアレンジしました。オーソドックスな九字切り及び「急急如律令」は用いていません。また平安時代に限定すると種類が制限されるため、近代のものも参考にしています。すべて原典がありますが、以下の呪文のように、一部訳すなどして雰囲気に合わせて調整しています。
-
膨大な種類がありますが、神への要望書(願意・要請先・約束の取り付けなど)がほとんどです。難解なものもルールがわかれば解読可能です。指で虚空に符を記す「暗符」は作中2ヵ所に登場します。本作では神道・道教のものと、民間の呪符も用いました。
-
両手と指の組み合わせで、手印は様々な効果をもたらします。指にはそれぞれ役割と力があり、どの指を組み合わせるのか、どの節に触れるのかで宿る力が変化します。本作では陰陽道、修験道、密教、道教の印を物語に沿うようアレンジしています。
-
音楽や舞は本来、神仏に捧げるためのものですが、本作に登場する舞は神の心を荒ませるための「呪いの舞」です。陰陽師が地鎮のために行う「反閇」「禹歩」という呪的歩行法を逆再生し、呪詛の舞としました。
-
「呪」は術や作法に則ったノロイやマジナイのみではありません。言葉や仕草によって意識を誘導することで、他者を捕らえ、時として自らも捕らわれます。人間生活の多くは「呪」の影響下にあるとも言えます。
-
森羅万象、すべてのものは陰と陽に分類できます。陰と陽は互いの存在がなければ成り立たちません。また陰の中にも陽が、陽の中にも陰があり、常に循環増減しています。
-
陰陽は木火土金水の気に分かれます。五行は季節・時間・方位・色・形・人体などのすべてと結びつき、それぞれ成長を促す「相生」と勢いを減じる「相剋」の関係を結びます。五芒星も五行を表しています。
-
陰陽師の職掌のひとつに風水があります。東西南北は青龍・白虎・朱雀・玄武の神獣で表され、陰陽・五行・干支などに細かく分類されて占いにも用いられました。晴明が用いたとされる式神「十二天将」も方位の神です。
-
龍は様々な力と形を持ち、本来、善悪はありません。作中の水龍は京都盆地地下に実在する巨大な湖のエネルギー。対極として登場するのが火の龍です。五行相剋の理「水剋火」により、水龍は火龍に打ち勝ちます。
-
霊をはじめとする、この世ならぬモノを視る能力、またはその力を持つ人を言います。陰陽師に必須のものではありませんが、この能力があると妖怪などへの対応が楽になります。
-
祓いと清め、神仏への供物という役割が一般的ですが、嗅覚は精神状態に強く働きかけるため、記憶が甦ったり、香で一定の状況に誘導、暗示を掛けることも可能です。