2018年、ブルガリアの制作会社B2Y Productionsの撮影誘致説明会に参加したラインプロデューサーの提案で、6月にブルガリアへロケハンに行く。『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』などハリウッド超大作も手掛けたB2Y社とNu Boyana Film Studiosのノウハウに目を見張った製作チームは、9月には羽住監督を伴って再び彼の地に降り立った。行って帰ってくるたびに監督の目が輝きを増し、「本当にこんなアクションが撮れるのか?」と日本で待っていたチームが驚く脚本へと変貌し、ブルガリアの首都ソフィアでの撮影が正式に決定された。
2019年3月27日、日本から渡った約50名のスタッフと、100名を超える現地スタッフが合流してクランクイン。初日から1カ月間、日本では絶対に不可能なことの連続だった。まず驚かされたのは、映画撮影への理解と協力だ。オープニングシーンの山下を乗せたゴミ積載トラックが走り去る一帯は、「日本人スタッフだけでの単独行動禁止」の警告が出された危険地域だが、地元住民との度重なる交渉の上、連日ハードなカーアクションを行った。空砲だが本物の拳銃も発砲され、異例尽くしの撮影の始まりを告げる合図となった。
最初の見せ場である、トラックから山下が振り落とされ、死の瀬戸際で追っ手から逃げるシーンは、官庁街の大通りで撮影された。大統領官邸前という都市中心部にもかかわらず、道路を何百mも封鎖することが許され、ロケットランチャーを放たれた車が横転、爆破するダイナミックなシーンとなった。
ブルガリアロケ最大の山場は、鉄道を終日借り切って、実際に列車を走らせての撮影だ。しかも、かつては共産党幹部専用の御用車で、今は観光用に使われている歴史的にも価値のある列車なのだ。ソフィアセントラルステーションから往復400km走らせて、膨大なカットが収められた。中でも特に危険な2つのシーンは、竹内の見せ場だ。まずは走行中の車両から本物の荷物カーゴを落とすカットで、線路脇に立つ鉄塔が迫り来る中、1発OK。次は、同じく走行中でドアが開いた状態の貨物車の中での敵エージェントとの格闘シーンだ。もちろん、安全のために竹内はワイヤーを装着しているが、全身がドアの外に出るくだりもあり、スタッフ全員が息をのむ中、激しくぶつかったドアのガラスがその衝撃で割れるという大熱演となった。羽住監督が顔合わせの時に竹内に出した、「アクションは吹き替えなしで全編撮りたい」という宿題への見事なアンサーとなった。
さらにそこに、広大なヌ・ボヤナスタジオでのセット撮影も加わる。敷地内には、欧米からアジア、中東まで対応できるオープンセットが組まれていて、本作ではインドとキューバのシーンに活用された。セットでの山場は、藤原に託された。鷹野とキムの格闘シーンで、巨大なステージの中に、50階建て高層ビルの天窓の上という設定の傾斜したセットと、その天窓の縁を切り取ったセットの2つが建て込まれた。藤原はその縁にぶら下がった状態から腕と腹筋の力だけで逆上がりのように全身を振り上げるという一流アスリート級の技を、半年に及ぶトレーニングで作り上げた肉体で披露した。
約10mの高さの陸橋から2人で飛び降りるワイヤーアクションや、藤原、竹内の共闘によるアメージングな見せ場も、想定をはるかに超える大迫力のシーンとなった。
普段ならカメラが入れない場所にも、様々な幸運が重なって招き入れられた。鷹野と田岡、AYAKOにキムの思惑が絡み合うウィーンでのパーティーのシーンは、創立130年を超えるブルガリアで最古のソフィア大学で撮影された。勝野洋扮する小田部教授がキムと手を結ぶシーンには、バルカン半島で最も美しいと称えられるアレクサンドル・ネフスキー大聖堂が使用された。こちらは、エンターテイメント作品への撮影許可は史上初だという。