❖撮影エピソード①
この映画のためだけに建てられたママレード色のオープンセット
小石川家と松浦家、光希と遊と両親Sの6人が一緒に暮らすシェアハウスは、撮影のために一軒家を建てている。11月上旬は更地だったつくばの住宅地の一角に、シェアハウスでのシーンが始まる12月上旬には、ママレード色の外壁・グリーンの屋根・赤い玄関ドア、何とも目を引くお洒落な家が完成していた。吹き抜けの広いリビング、キッチン、光希と遊、それぞれの両親たちの部屋──4LDKの一軒家だ。オープンセットにこだわった理由のひとつは、家の中から外へ一連で撮影したかったという廣木監督の撮影方法にもある。たとえば、両親Sが再婚旅行に出掛けるシーンがある。両親たちが玄関から出てきて車に乗り込み、それを見送る光希と遊。再婚をまだ受け止め切れていない光希は、見送った後に近所の公園に向かって歩いていく。彼女を追いかける遊。その家から公園までのシーンは一連で撮影している。スタジオにセットを作り、屋外シーンはロケという方法も可能だが、住宅地のなかに本物の家を建てることによって生まれるリアリティ、家の外に広がる街並と道、その先に広がる空は、画になるだけでなく、役者にとっても演技の手助けになる。シェアハウスの内装やインテリアにもこだわりがある。絵に描いたようなモデルハウスではなく、小石川家と松浦家それぞれの家にあったものを持ち寄っている雰囲気を出している。撮影現場を訪れた原作者の吉住先生も、その細やかな設定に驚き感動していた。