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NEWS

2022.12.02
戸田恵梨香×原作・湊かなえ スペシャル対談

この度、戸田恵梨香さんと、この衝撃の物語を書き上げた原作者・湊かなえさんによる、貴重な夢の対談が実現!!戸田さんからは撮影の裏話や湊さんからは小説「母性」についてなど、作品への理解がより深まること間違いなしのここでしか聞くことのできない充実した内容となっています。貴重な対談を是非ご覧ください。

――完成作を観て、ルミ子役の戸田さんについていかがでしたか?

湊さん:戸田さんには、ドラマ「花の鎖」と「リバース」に出演していただきましたが、今回のルミ子は今まで演じてきてくださった人物とはガラッと違う、いろいろなものを背負った母親であり、ひとりの女性である役なので、戸田さんが母親を演じることが全くイメージできない状態から始まりました。いつもはロケ見学で現場を見せていただいて、そこでガチッとイメージがハマるのですが、今回はコロナ禍での撮影だったので、ロケ見学にも行けませんでした。しかし、完成した映画を観て、教会に駆け込んでくる戸田さんを一目見て、「この人は今まで何を背負ってきたのだろう」という表情に、ガシッと心を掴まれて鳥肌が立ちました。

戸田さん:ありがとうございます。

湊さん:まだ何も喋っていないし、これまでどのような背景があったのかも説明されていないのに、あの表情ひとつですごいものを背負ってきたことがわかりました。セリフも何もいらないんだ、もうルミ子だ!と思い、本当にゾクゾクしました。

戸田さん:うれしいです!

――今回、ルミ子を演じるにあたり、戸田さんご自身ではどのようなことが新しい挑戦だったと思いますか?

戸田さん:ルミ子の人生が壮絶すぎて、私自身の人生ではとてもかなわない経験をしているんですよね。その説得力を持たせられるかは不安でしたし、未知の世界でした。それを成立させるにはどのようにすればいいのだろうかと、ものすごく理論と理屈を考え抜いてやっていました。「花の鎖」と「リバース」は感情でお芝居をやることができましたが、今回は感情だけでは成立させられない。ましてや自分の目線だけではなくて、娘からの目線もあって、その娘からの目線ではどのように見えているのかという客観視も必要でした。本当に頭を鍛えられた現場でした。

湊さん:今の客観視というお話でハッとしたのですが、この作品には“ルミ子の視点”と“清佳の視点”があります。“ルミ子の視点”の時は、きっと自分の内面から出てくる表情や演じ方があって、 “清佳の視点”の時は、清佳の目に映っているルミ子を演じられています。下にテロップで“清佳編”とか、“ルミ子編”など、そういったものが出ていなくても、どちらの視点なのかが映画を観ていてわかるんです。全く同じ場面で、涙の流し方も一緒なのに、表情などが微妙に違って見えたりする。それはすごいことだと思いました。

――その視点の違いは、どのように演じられたのでしょうか。

戸田さん:もう考えるしかなかったです。基本的にはアングルも一緒で、本当にお芝居を変えるだけだったので、自分で計算して演じていました。

――娘を演じた永野さんとは、話し合いをされたのでしょうか。

戸田さん:話し合いは特にしていなくて、それぞれが、それぞれの思うものをやっていました。ある意味、感情だけでは成立させられないけれど、その瞬間に生まれたものをお互いがちゃんとキャッチし合ってやっていたなと思います。

――永野さん含めそれぞれが難役を演じられたかと思いますが、現場では特別な絆のようなものが生まれたりしましたか?

戸田さん:特別な絆のようなものが生まれたかどうかはわかりませんが、芽郁ちゃんだけではなく、高畑(淳子)さんや大地(真央)さん含め、他のキャストの方々も「どうやって表現していくのか」「この世界観をどうやって作っていくのか」と悩まれていました。ほとんどのキャストの方々が悩んでいるというのは、かなり珍しい現場ですし、それだけ難しい作品なのだなということを実感しながらやっていました。だからみんなで寄り添い合いながら、確かめ合いながら、進められたんだなと思います。

――ルミ子と清佳、二人の掛け合いをご覧になっていかがでしたか?

湊さん:小説を書いている時には頭に映像が浮かんでいるので、ルミ子と清佳それぞれの表情のイメージが自分の中ではあったはずなんです。でもルミ子が清佳に手を伸ばし、抱きしめるのか、首に手をかけるのかという場面で、戸田さんと永野さんの表情を見て、「ルミ子と清佳はこんな表情で向き合っていたんだ」ということを逆に教えられたような気がしました。「このセリフはこういう表情で言っていたんだ」「こういう間で言っていたんだ」と、一つ一つの表情やセリフの言い方などから、正解はこれだったのだと、私が教えてもらった気がしました。

戸田さん:湊さんは小説を書かれている時に、映像を想像しながら書かれているんですね。

湊さん: 小説を書くとき私の頭の中はいつも映像で、今はルミ子の目線、今は清佳の目線といった感じで書いていました。でも私の頭の中にルミ子も清佳いたはずなのに、一度映像を観たら全部上書きされてしまいました。
自分の中にあったはずのものが、もう思い出せないというか、思い出すのももう無駄な作業だなって。今文庫を読み返しても、もう全部、戸田さんと永野さんや、他の役者さんの顔で出てきます。

戸田さん:すごいですね!

湊さん:そうすると、「ここでは本当はお互いにどう思っていたのだろうか」「これは正しかったのか」と自分で迷いながら書いていた部分も、映画を観ると「こう見えていたんだ」と考えられるんです。ラストシーンの捉え方についても、「本当にこの人たちは幸せになれるのだろうか」と思いながら小説は終えたのですが、映画の最後の表情を見ると「ここからもう少し明るい光が差すのではないか」と思えたり。もう上書きされて、作品の色も変わって見えるようになりました。

――生みの親である湊さんから今のお言葉を聞いて、いかがですか?

戸田さん:うれしいですね。いつも原作がある作品をやらせてもらう時には、やはり原作の世界から絶対外れてはならないということだったり、失礼があってはならないということが前提にあって、オリジナル作品とは全く異なるプレッシャーがあるんです。今回は特にその世界観が難しかったので、湊さんのお言葉を聞いて本当に安心しました。

――「花の鎖」「リバース」『母性』とご出演されてきた戸田さんにとって、湊ワールドの魅力として実感されているものはどのようなものでしょうか。

戸田さん:自分自身が、普通に生きていたら気づけないところを気づかされる。そしてそれが切なくて儚くて、それでいて同時に尊いものなのだということを教えてくれると思います。

――今このタイミングでルミ子という役にチャレンジできたことは、ご自身のキャリアにおいてどのようなご経験になりましたか?

戸田さん:この数年は自分の感性、感受性というものをどれだけ鍛えられるのか、それを体現できるのかということをやり続けていましたが、今回はここまで使ったことはないぐらい頭脳を使いました。体現の仕方としては、きっと今までの自分の経験だったり、持っているものを出したのですが、そうではない方法がやっぱりあるなと思いました。芝居方法の可能性を見出せた作品だなと思います。

――戸田さんの女優さんとしての魅力をどのように感じられていますか?

湊さん:これまでに私が書いたものを戸田さんには3役演じていただきましたが、特に今回のルミ子は今までに見たことのない戸田さんを見せていただけたと思っています。ということはもっと知らない戸田さんがいるはずなので、今後もいろいろな戸田さんを見たくなります。戸田さんの可能性、新しい扉をまた一つ見せてもらったからこそ、もっといろいろな扉を見せていただきたいと思いますし、その違う扉でまた自分の書いたものを演じてもらえたらいいなと思います。

戸田さん:嬉しいです!最高です!

――せっかくの機会なので、戸田さんから湊さんへ聞いてみたいことがあればご質問をお願いいたします。

戸田さん:先日、TV番組で高畑さん、芽郁ちゃんと一緒にお話をさせていただいている中で、“親になれない、娘であり続けたい娘”という発想は、これまであるようでなかったよね、それに気づかなかったよねという話になったのですが、湊さんは、どこからこの作品を書こうと思われたのか気になりました。

湊さん:母性というのは女性に自然に備わっていて、結婚して子供が生まれたからといって、みんながそういう母親の気持ちになれるわけではないということは、よく言われていますよね。それで悩んでいらっしゃる方がたくさんいる中で、“母性がない”ということを別の言葉で置き換えたらどうなるのだろうと考えました。それは男性的な気持ちが強いのか、それとも母親と対極にあるものなのか。となると母親の対になるのは父親なのか、それとも…といろいろと考えたときに、母親の対となるものに娘というものがあると思ったんです。ずっと守られる側でいたいから、自分が守るという発想にどうしても切り替えられなくて、自分の子供なのに、自分の母親がその子をかわいがっていたら、嫉妬を感じたり、張り合ってみたりする人もいるのではないかというところから、この母親の対になるもの、母性がない、イコールには何があるのだろうということから考えました。

戸田さん:湊さんが実際にご経験されたところから始まったわけではなく、全く異なるところからスタートしたということですか?

湊さん:そうですね。私は子供が生まれたあとに小説家になったのですが、誰かの母親であり、同時に母親の娘でもある、そんな両方の気持ちがある時に書いておこうと思っていました。

戸田さん:そうなんですね。

湊さん:まだ子供が小学生だったときに書けてよかったと思っています。その時々で感じる子供への距離感や接し方がある中で、まだ子供が手が離せない状態でいる時に、母娘どちらの視点も持って書けたことによって、自分にも問いかけることができました。母性のあるなしや、自分の中にどれくらい母性があるのかではなく、どのように目の前の人に接していけばいいのだろうと考えることが、みんなが気持ちよく過ごせるやり方なのかなど、そうやって自分の中でも答え探しをしながら書いていたところがあります。

戸田さん:ルミ子という女性も衝撃的だったのですが、私の中で三浦(誠己)さん演じる父親像も衝撃的でした。彼自身、子育てに全く参加しようとしなかった。あれはどうしてそうされたんですか?

湊さん:ルミ子は自分が守られる立場でいたい、娘でありたいと思っている女性。それは大きく考えると、年上の人から自分が庇護される立場でいたいということです。たとえ母親から離れたとしても、今度は夫が守ってくれていたら、その中で安心感が生まれて、守られているという余裕の中で娘に接することができるはずなのに、夫は夫で少年のままになってしまっている。そうやって時間を止めた人と、守られたい人が一緒にいたら、その子供はどちらの目にも映っていない子供になってしまう。その子供はどのように感じるのだろうと思い、自分が少年のまま、時間を止めた夫にしました。