カタルシスのあるラストが見事。夢と現実は基本的には相交わることのないもの。だがこの作品は、夢と現実の間をつないでいるものがあり、それが1つの化学反応を起こすところが素晴らしい。すごく緻密に計算され、最後の最後まで予想できなかった。
親が子に与えられる「心の羽根」が、どこから生まれてくるのかを、この映画は、うらうらとした昼の眠りの夢のように、私に見せてくれました。
少女の主観的断片で高速進行する荒唐無稽な夢と低速進行するありふれた日常、西欧風異世界と実在の日本、地方と都会、親と子供、上司と部下、手動と自動…個々の舞台と価値感の多層的対比を織り交ぜながら進行する冒険の旅を、豪華な作画・美術スタッフでテンポ良くまとめたファンタジーの力作。魔法少女と随行ゆるキャラ、アシスト男子、近未来アイテム、地方と都会の風景美、機械と肉体を駆使した高低差アクション…等々「日本のアニメ」が累積した得意技をこれでもかと詰め込んだオリジナル脚本を等価的分析的に整理し、少女の精神的成長へと着地させている。2D作画・美術の伝統と3D-CGで作り込まれた立体空間を自在に移動するカメラの融合など、技術的進歩にも感心。
ねむり、じゃなく“ひるね”、JKじゃなく“姫”
このタイトルから感じられるひとつ軽めのアタックがまず心地よいです。時代の先端を行くリアルな全自動自動車をテーマにしながら、舞台は瀬戸内そしてアナログな自動車工場、作品の中のそれぞれの対比を確認するたびに、神山監督がこの作品に込めたメッセージがいちいち伝わってきます。あちら側とこちら側を行ったり来たりするココネと一緒に観ているこちらの感情が応援目線でなくなっていき、良い世界観にゆだねられていった、そんな気持ちよさに拍手喝采の映画です。
神山監督らしい未来感が、素直で優しさに満ちた魔法の世界と幾重にも重なる不思議なドラマです。気付けば心が暖かくなっています。
作家が化ける瞬間がある。『ひるね姫』は、まさにそんな作品だ。ハードな作風で知られるアニメ監督・神山健治が、親子関係という題材で「ひとにとって大事なもの」を浮き彫りにする。真摯な姿勢は相変わらずだが、肩の力がぬけてキャラも世界観も身近に感じられるところがいい。何より「ひるね」という単語のゆるさが魅力的だ。よく考えればアニメ映画も「昼間見る夢」だから、「ひるね」と同じものではないか。作中の「夢」では魔法、巨大ロボット、怪獣と「アニメの王道」が続々登場。「デイドリーム」にこめられた真実が信じられれば、人生の目の前が開ける。他に類をみない爽快感が味わえる、新鮮なアニメ映画の誕生である。
神山監督の作品はいつも一つ一つ丁寧にカットを積み上げる。その集合がいつしか画面を超えた深い意味を持ち始める。他の追随を許さない緻密さが神山作品の真骨頂だ。今作ではその緻密さがさらに天衣無縫の領域まで高められ、まるで自然に、まるで流れるように見やすく、心地良く、心を揺さぶる。一人で見ても、二人で見ても、そして家族で見ても楽しめる一大エンターテインメントを作り上げた。そこには神山監督らしい社会への鋭い視線が込められおり、同時に限りなく優しい人間的なまなざしが含まれている。厳しさと優しさ、社会と家族、未来と伝統、現実と物語、さまざまな対立が螺旋を描きながら解消され、観る人を新しい場所へ運んでくれる。
2020に向けた「今」を切り取った逸作だと思います。社会情勢、経済情勢、技術革新、そして人の心... 近未来への期待や不安を、現実と虚構を織り交ぜて展開する様、それが「今」のリアルなんだなと感じました。東京オリンピック後にもう一度観て、どう感じるか?それも楽しみな作品です。
夢と現実を行き来する、ココネちゃんとモリオくんにハラハラドキドキ。冒険活劇でもあり、近未来メカものでもあり、そしてハートフルストーリーでもある本作は、ちょっと不器用な父の娘への深い愛が尊くにじむ、心温まる家族の絆の物語、気が付くとはらりと涙が頬を伝います。自動運転、AI、VRなど先端技術が随所に登場し、ハードウェア・ソフトウェア好きの方も楽しめる要素がいっぱい、見どころたっぷりの良作、おすすめです!
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