ケンカばかりのふたりが実写の世界に!

監督のティム・ストーリーは、この歴史あるコンビを現代の観客に届けようと心を砕いた。「トムとジェリーは体を張ったスラップスティック・コメディを繰り広げますが、そのおかしさは時代を超越しています」とストーリー監督は言う。「この作品では、長い歴史を誇る名コンビに空前の大舞台を用意しました。いつもなら、たとえば民家が舞台になるところですが、今回のふたりは広いホテルに身を置き、生身の人間と交わります。言葉のやりとりは無理としても、ばっちり絡みますよ!」
そして、ふたりは得意の騒動を巻き起こす。「キャラクターの設定はオリジナルのアニメーションどおりにしました」とストーリ監督は続ける。「この映画でも、ふたりは互いを追い回し、痛めつける。僕たちがテレビで見たトムとジェリーそのままです。アクションのパターンもすべてオリジナルを踏襲しました」
本作では、誰もが知るトムとジェリーを「おそらく誰も観たことのない描き方でお見せできると思います」と製作のクリス・デファリアは語る。「この作品はいわばハイブリッド映画です。昔ながらのアニメーションを、現実の世界を舞台にした実写映像に織り交ぜました。アニメーションならではの過激なアクションやギャグが満載で、往年のテレビシリーズを彷彿させます」

クロエ・グレース・モレッツ演じるケイラは現実の世界に生きるキャラクターだが、口のうまさはトムとジェリーに似ている。モレッツは物心ついたときから、この悪友コンビのファンだ。「小さいころからトムとジェリーを見てきたわ。当時はストーリーの内容もよく理解できなかったんじゃないかしら」とモレッツは言う。「だけど、画をているだけで笑えたの。ふたりは(お笑いトリオの)3ばか大将みたい。ケンカばかりしているけれど、本当は大の仲良しだと思うわ。ハンナ=バーベラの作品は全般的に好き。子供のときは4人の兄と一緒に、しょっちゅうテレビでハンナ=バーベラのアニメを見ていたの」
脚本を担当したケビン・コステロは伝説のキャラクターを描くことに責任を感じたという。「執筆中は楽しみもプレッシャーも大きかった」とコステロは明かす。「トムとジェリーは誕生から81年を経た今も世界中で大人気ですが、それにはちゃんと理由がある。その人気のツボをできるだけ丁寧に含めるようにしました。ふたりの個性はそのまま生かさなければいけません。見た目も同じ、言葉をしゃべらないのも同じ、そして、派手でこっけいで笑えるバトルを展開するのも同じです。昔のテレビシリーズを研究し、キャラクターの視点を分析して、おなじみの要素をなつかしくも新鮮にアレンジすることは本当に楽しい作業でした」

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ふたりと共演するマイケル・ペーニャもトムとジェリーの長年のファンであると同時に、日ごろからそのおもしろさを次の世代に伝えてきた。「昔から見てきたトムやジェリーと、こうして共演できるなんて感無量だよ」とペーニャは語る。「でも、それ以上にうれしいのは息子や甥っ子たちがこの作品の完成を楽しみにしていること。息子たちもアニメーションのトムとジェリーをよく見ているんだ」
どんなジャンルの作品であれ、映画作りに苦労はつきものだ。実写には実写の、アニメーションにはアニメーションの難しさがある。ストーリー監督は、世界中のあらゆる世代のファンに満足してもらいたい一心で、その両方に挑戦することにした。「オリジナルの作風をそのまま生かしたかったので、主役のふたりと脇役の面々は二次元のキャラクターにとどめました。ですが、彼らをこちらの世界に迎えて描きたかった。だって、トムやジェリーと遊んでみたいと思わない人はいないでしょう?」

大嫌いだけど、好き

トムとジェリーは80年あまりにわたって、あらゆる世代の人々を楽しませてきた。ファンの間ではトム派とジェリー派に分かれるのではないだろうか。
「ふたりとも大いに笑わせてくれます。とくにアニメーションでは笑いは重要な要素です」と製作のデファリアは指摘する。「スラップスティック・コメデイがすたらないのは家族みんなで楽しめるからであり、万人にウケるからだと思います。それにトムとジェリーは本当に愛らしい。ふたりのキャラクターデザインはアニメーションの金字塔ですよ。無駄のないフォルムと豊かな表情がすばらしい。ふたりのバトルには“ただ強ければいいというものではない”という明確なメッセージが見て取れます。知恵は腕っぷしに勝ることがあるんです」

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このコンビを見ていると、競争相手とは何か、たとえば兄弟姉妹とはどういう存在なのか考えさせられることが多い。デファリアが続ける。「トムとジェリーは因縁のライバル同士ですが、じつは互いにいちばん大切な相手でもあります。まあ、当人たちは認めないと思いますが(笑)」
これまでストーリー監督はもっぱら実写映画を手がけてきたが、「この作品を撮ることも、トムとジェリーを“実在”のロケーションに置くことも楽しみでした。ふたりがニューヨークのような大都会を駆け回り、大暴れする姿を観てみたかったんです」 ストーリー監督が続ける。「僕はオリジナルのシリーズを見て育ちましたから、オリジナルの良さに忠実でありたいと思いました。この作品でもアクション描写に手加減はありません。なつかしい効果音も健在です。トムとジェリーは追いかけっこをしながら次々とモノを壊していきますが、そのときオリジナルと同じ効果音を使いました。もちろん、ふたりのファイトシーンも出てきます、それも頻繁にね(笑)」。ただし、本作には意外なオチがつく。「ふたりは、ある時点からタッグを組み、ピンチを脱するために力を合わせるんです」

個性ゆたかな新キャラクターたち

アニメーションのキャラクターと絡むキャストに、ストーリー監督は個性豊かなキャストを集めた。その筆頭が、若きヒロインのケイラを演じるクロエ・グレース・モレッツ。
「ケイラは興味深いキャラクターよ」とモレッツは分析する。「しょっちゅう早とちりをするし、平然とウソをつくのに、なぜか憎めないの。出まかせを言って一流ホテルに職を得るんだけど、本当はそんな資格はぜんぜんないの。それでもケイラを応援したくなるのは彼女のウソは相手を傷つけることが目的ではないから。決して悪気はないのよ。ケイラはただ自分を認めてもらいたいだけ。自分を買いかぶっている節もあるけれど、私こそが適任者だと証明したい。だから、最初からネズミ退治というやっかいな仕事を引き受け、ネコを雇うことがいちばんの得策と考えるの。それって妙案でしょう?」
モレッツがこの役を楽しんで演じることができたのは、「ドジなところが普段の私にそっくりだから。もちろん、私はケイラと違ってウソつきじゃないけど(笑)、リアクションがオーバーだったり、そこつだったりするところはたしかに似ているわ」とモレッツは明かす。「自分の地を演技に生かしたのは今回が初めてかもしれない。ケイラが軽口をたたくようすは、家族といるときの私そのものなの」

モレッツが今回のプロジェクトにひかれたのはコメディの要素だけではなかった。「監督のティムと初めて顔を合わせたとき、“異次元の映画”と思ってほしいと言われたの。その言葉にしびれたわ」とモレッツは言う。「ストーリーの舞台はニューヨークだし、雰囲気も街並みもニューヨークそのものなのに、周囲を見回すと、飼い主と散歩中の犬や料理の皿に乗った魚がどれもアニメーション。つまり、現実とフィクションが同居しているの。そういう現実離れした感覚が気に入ったわ」
モレッツは撮影現場の雰囲気も気に入った。「監督のティムは、開放的でくつろげるセットを用意してくれたの。『これは違う』とか『あれはダメ』とか、そういう否定はいっさいしない。いつだって『それいいね』と言ってくれる。だから安心してアドリブをきかせることができたし、新しいことに挑戦できたわ」

ストーリー監督もモレッツに賛辞を送って言う。「クロエは演技力も人柄もすばらしい。今回はコメディタッチの演技をぞんぶんに披露してもらうことができて満足しています。クロエはトムやジェリーと絡むシーンが多いので、カメラの前では一人芝居をすることがよくありましたが、みごとにこなしてくれました」
「アニメーションのキャラクターと絡むシーンは全身を使って表現したわ」とモレッツは振り返る。「私がカメラの前で演じたリアクションは、あとでアニメーターの参考になったの。いい勉強になったわ」

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ケイラは、トムとジェリーがしでかす不始末を上司の目からできるだけ遠ざけようとする。ケイラの上役にしてイベント・マネージャーのテレンスは当初からケイラに警戒心を抱く。
「テレンスはいわば本作の悪役で、名優のマイケル・ペーニャが演じています」とストーリー監督は言う。
「ティム・ストーリーは誰に対してもプレッシャーを与えない。役者にとってはありがたい監督だよ」とペーニャは言う。「たとえ気になることがあっても、それを表に出さないんだ。ティムの現場は本当にリラックスできたよ」
ペーニャが続ける。「僕が演じるテレンスは、きたる結婚式を是が非でも成功させたいと思っているんだ。ホテルにとっては久しぶりの大きな祝宴だし、いい宣伝になることは間違いないからね。まあ、宣伝といっても自分の手柄を宣伝したいわけだけど。テレンスは、父親がこのホテルに勤めていたこともあって、ホテルそのものにも大きな愛着がある。だけど、それ以上にエゴが強いから、結婚式の成功を至上命題にしているんだ」
だから、新入りのケイラににらみをきかせるのだろう。「テレンスは仕事柄、方々に目を光らせ、ときには火消し役までこなして、いろんなタイプの人間を相手にしている」とペーニャが説明する。「ところが、素性のよく分からないケイラが現われ、ネズミの問題が発生し、ケイラがいきなりトムを連れてくる。こうして、お察しのとおり、とんでもない騒動が始まるんだ」
「テレンスはケイラのウソやうさん臭さを一目で見抜いたのかもしれない」
とケイラ役のクロエ・グレース・モレッツは分析する。「でも、ケイラはそう簡単にばれるはずがないと思っているの。マイケル(・ペーニャ)を相手に神経戦を演じるのはすごく楽しかったわ」
「クロエはたいしたものだよ」とペーニャは感心する。「撮影当時はまだ22歳だったけど、すでに芸歴は長い。いつも万全の準備をして撮影にのぞむんだ。演技の幅は広いし、抑揚のつけ方も心得ている。クロエとの共演はいい思い出になったよ」
テレンスの監視対象になったケイラだが、総支配人に対しては言葉巧みに自分を売り込み、まんまと信用を勝ち取る。やや洞察力に欠ける、ロイヤル・ゲート・ホテルの総支配人ミスター・ドゥブローをロブ・ディレイニーが演じている。
ドゥブローがケイラのような青二才にだまされてしまうのは 「ドゥブローの目には、ケイラが有望な人材に映るんだ。若いし、エネルギッシュだし、進取の気性に富んでいるし、はじけるような笑顔を見せるからね」とディレイニーは説明する。「ケイラが明ら かに力不足であり、いずれ決定的なミスを犯すであろうことは、あとになって分かる。でも、ケイラは魅力的なキャラクターだね。彼女の奮闘ぶりを見守りたくなるし、一方、大事な結婚式を台なしにするんじゃないかと心配にもなる。その心配は的中するわけだけど、だからおもしろい展開になるんだ」

ロイヤル・ゲート・ホテルの従業員に、キャメロンというチャーミングなバーテンダーがいる。キャメロンは新人のケイラに対し、ホテルの仕事を積極的に手ほどきしてやる。「キャメロンはケイラが初出勤してきた日から、なにかと面倒を見てやるんだ。ケイラが早く職場になじめるように手を差し伸べるんだよ」とキャメロンに扮するジョーダン・ボルジャーは言う。「キャメロンはホテルの内情を知り尽くしている。ジェリーの問題が勃発したときは対策に駆り出され、ケイラに的確なアドバイスをするんだ。キャメロンはケイラに好意をもっているんじゃないかな。ケイラの味方になり、成長を見守ろうとするのには、そういう理由もあると思うんだ」
最後に(正確には初めて)紹介するキャラクターがハトのピジョンである。結婚式の招待客にヒップホップを披露し、観客にはトムとジェリ―が暴れ回るニューヨーク市内を上空から案内してくれる。都会派のラッパーで、その人気は(ハトだけに)飛ぶ鳥落とす勢いだ。トリオを組んで活動しているが、ファンのハートもスポットライトも独占する。低音ボイスでつぶやくように歌うのが特徴。その声を担当しているのは、ほかならぬストーリー監督だ。

おなじみのキャラクターたち

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トムとジェリーの脇を固める二次元のキャストには新旧のキャラクターが入り交じり、なかには聞き覚えのある声の持ち主もいる。
スパイクは気性の荒いブルドッグだ。犬は人間の良き友というが、スパイクは新郎のベンの良き友である。ベンはニューヨークの名門ロイヤル・ゲート・ホテルでハイソな結婚式を予定しているが、スパイクはフォーマルな席もTPOもかまうことなくトムを追い回し、騒動(と突風)を巻き起こす。
美形で都会的なトゥーツはプリータの愛猫。見た目だけはお嬢様である。飼い主のプリータは上流階級の出身でSNSのインフルエンサーだ。トゥーツはそんな新婦に抱かれてロイヤル・ゲート・ホテルに到着する。お高く止まっているように見えて、トムと交流したり、ジェリーを見かけて爪を立てたりする。
金魚のゴールディーは、ロイヤル・ゲート・ホテルの総支配人ドゥブローの机上で元気に泳ぎ回る。イベント・マネージャーのテレンスを無言でバカにするが、新入りのケイラのことは一目で気に入る――たとえケイラがトムを雇い、招かれざる客のジェリーを追い出そうとしても。

地元の野良猫ギャングを率いるブッチは、ニッキー・ジャムが吹き替えにあたる。ブッチは直近5年間に公開されたギャング映画をすべて観ているのではないかと思えるほど、ストリート用語を使いこなし、ボキャブラリーも豊富だ。トムが自分の縄張りに入ってくると、仲間を集めて締め出しにかかるが、トムのほうが一枚うわて。しかし、両者は動物の保護施設で再び顔を合わせる。
ギャングのなかで、だれもが認める切れ者といえばライトニングだろう。その声をジョーイ・ウェルズが担当している。生まれたときは病弱だったらしいが、今ではリーダーのブッチにいちいち指示を仰ぎ、「立って歩け」と言われれば素直に従う。
ハリー・ラッチフォードが吹き替えにあたるトプシーは、冗談の通じないちびネコだ。一部のギャング仲間から身長コンプレックスの持ち主とみなされ、バカにされるが、それでも木箱を見つけてはよじのぼり、仲間と目を合わせようとする。
アニメーション界の大御所ネコともなれば、ライバルのネズミをどこまでも追いかけるだけが能ではない。良心や良識も当然のごとくもち合わせている。
それが、トムの空想の産物である“天使トム”だ。このキャラクターはトムが窮地に陥ると、ささやくような声で平和的な解決策を提案する。一方、ずるがしこい“悪魔トム”はジェリーに対する執念をたきつける。
トムは大きな決断を迫られると、天使と悪魔を呼び出す。ふたりはトムの耳元でかわるがわる助言するが、ストーリー監督は両者の声を1人のキャストに託した――それがリル・レル・ハウリーだ。

アニメーションと実写の
ハイブリッド映画製作の舞台裏

二次元のキャラクターを、主役も脇役も含めて制作したのは総勢29人のアニメーションチームだ。英国に19人、ロサンゼルスに10人いるメンバーが3班に分かれて作業にあたった。制作班では製作担当と監修担当の2人が全体の工程を統轄。編集班では編集者1人とアシスタント2人が動画をつなぎ、実写映像と合成した。それ以外のメンバーは作画班として原画や動画を制作した。
アニメーションチームでは、オリジナルのテレビシリーズを参考資料とし、100話以上のエピソードをサーバーに保存して共有。チーム全員がシリーズに影響を受けているが、とくにアニメーターたちは子供のときからシリーズに親しみ、初代のアニメーターが確立したギャグの間合いを研究した。なかでも、ストーリー担当のディーノ・アサナッシオは1980年代初期にウィリアム・ハンナに会ったことがあり、絵コンテ担当のフィル・バレンティンに至っては、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラの両人を個人的に知っていたという。ほかのメンバーは以前にも『ロジャー・ラビット』や『SPACE JAM/スペース・ジャム』といったアニメーションと実写のハイブリッド映画を手がけている。
本作の工程では膨大な点数の原画を要した。撮影開始前の段階で約1万5000点、撮影終了後の26週間で週に900点、合計2万5000点以上が制作された。
ケイラ役のモレッツが敬服する。「構図、質感、色彩を含めて、手描きアニメーションの制作現場に触れることができたの。貴重な経験になったし、小さいころを思い出したわ。トムとジェリーにかぎらず、動物同士の会話って人間の耳に届かないでしょう。だから、想像の余地がおおいにある。動物たちはどんなことを話し、何をもめているのか。子供のころはそんなことをよく考えていたけれど、今回は作り手の側からイメージすることができて楽しかったわ」

一方、特殊効果と視覚効果のチームは撮影用のダミーとして“立体版”のトムを用意した。さらに等身大のジェリーやトゥーツ、頭部だけのスパイクやベンガルトラなど、二次元キャラクターの立体モデルを制作。ゾウのダミーに至っては実物大でありながら、動かすことも折りたたむこともできる。二次元キャラクターを立体化する際は、新旧の技術を駆使して寸法を決め、3Dプリンターを使って一回り小さい本体を出力。その本体に発泡ポリエチレンのプラスタゾートという素材を貼り付け、フルサイズに仕上げた。トムのダミーにはアルミニウムの芯材と発泡ポリウレタンを使って、より柔軟性をもたせ、撮影時はキャストの演技に即座に“反応”できるように工夫した。また、トムとジェリーの“被毛付き”模型はライティングやカメラワークの参考になった。こうした動物キャラクターの立体物はすべて6人のオペレーターが操作した。
「通常、こういう撮影ではテニスボールを相手に演じるんだ」とテレンス役のペーニャは言う。「今回はダミーが相手になってくれて、とても助かったよ。こちらのセリフにも熱がこもるし、動物と会話している気分になれるから格段に演じやすかったね」
ケイラ役のモレッツはトムやジェリーと絡む機会がいちばん多かっただろう。ダミーとの共演については「多少の慣れは必要だったけれど、貴重な経験になった」と言い、「あのダミーたちは撮影の合間の遊び相手としても最高なの。控え目に言えば、おもしろい。もっと言えば、一瞬たりとも飽きなかったわ!」と明かす。
また、特殊効果チームはゾウに見立てた装置を2台開発し、セシルとマルコムの脚の動きを出すことに成功した。モーターと空気ばねを連動させることで大型動物のゆったりとした歩みを実現し、視覚効果チームが歩行周期を計算してプログラミングした。

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こだわり抜かれた、美術

「トムとジェリーを場違いな環境に置くとしたら、候補はいくつかあります」と製作のデファリアは言う。「たとえば、飛行機。クルーズ船もいいかもしれません。本作の舞台をニューヨークの5つ星ホテルにしたのは、ひとえに壊せるものがたくさんあるからです。それに、高級ホテルにネコやネズミがうろついているのは好ましくない。ましてロビーで追いかけっこをされるのはまずいですからね」

本作の主要な撮影は英国リーブスデンのワーナー・ブラザース・スタジオと2カ所のロケーションでおこなわれた。ロケーションのひとつはロンドンのバタシー・パーク、もうひとつはロンドンから32キロほど離れたスラウ地区のフルマ―・ウッドだ。どちらも作中にはニューヨークのセントラル・パークとして登場するが、前者は園内でも人通りの多いエリア、後者は緑が多く、人通りの少ないエリアとして使用された。トムがキーボードを持ち込んで演奏を披露するシーンは前者を舞台にしている。スタッフは正確を期すため、ニューヨーク市内に大人数の第二撮影隊を送って実景を撮影。美術チームはその映像に合わせてセットを設計し、スタジオ内の3つのサウンドステージに計47のセットを組んだ。

ジェイムズ・ハンビッジ率いる美術チームはシンプルな色使いを心がけた。そうすれば、のちにトムやジェリーをどこに加えても背景とキャラクターの色味がかぶることはない。また、美術チームはジェリーの背丈を念頭に入れ、調度品などの高さに細心の注意を払った。この作業には撮影のアラン・スチュワートも参加し、“小柄な主役”の視野を計算しながら、カメラのポジションを確認し、床などの被写体をどこまでカバーするか検討した。

作中のロイヤル・ゲート・ホテルは、ニューヨークのプラザやウォルドーフ・アストリアに匹敵する高級ホテルという設定だ。ストーリーの大半はここで展開するため、多くのセットが必要になった。たとえば、豪華なロビー、バー、新郎新婦が利用する最上階のスイートルーム、ケイラの従業員用の部屋、総支配人のオフィス、廊下、厨房、バンケットホールなどである。各セットのデザインにはアール・デコ様式やフランク・ロイド・ライト、ルイス・カーン、ルイス・サリバンといった建築家の影響が見てとれる。また、ロビーに置かれたフラワーアレンジメントはパリのフォーシーズンズホテル・ジョルジュサンクのアレンジメントを参考にした。

ホテルのエントランス部分は、リーブスデンのスタジオに残っていた『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』のオープンセットを改装したもの。美術チームは2か月がかりで1920年代のパリの街並みを、現在のニューヨーク市内に一変させた。ただし、再利用したものがひとつある。それは『ファンタスティック・ビースト~』の撮影で使われたスチーム発生装置だ。美術チームはこの装置をオープンセットの道路の下に設置し、マンホールから立ちのぼる蒸気を再現。これでマンハッタンの景観が一段とリアルになった。

セット・デコレーターの二ーブ・コールターは、ベンとプリータのゴージャスな挙式のシーンに向けてインド流の婚礼を徹底的に研究。脚本が指示するベンの過剰な演出と、ホテルの雰囲気にふさわしい優雅で高級感あふれる演出とを両立させた。また、コールターはアシスタントを連れてインドまで飛び、マンダップ(支柱や天蓋などが付いた挙式用のスペース)を調達し、王座や調度品を買いそろえた。
だが、数ある調度品のなかで最高傑作といえば、ミニサイズのディレクターズ・チェアだろう。この2脚のチェアは、小道具チームがトムとジェリーのために作ったものだ。

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キャストの装いを用意したのはアリソン・マコッシュ率いる衣装チームである。メインキャスト用に80点、エキストラ用に1750点の衣装を仕立て、また買いつけた。
ニューヨークのファッションに影響を受けたというマコッシュは、モレッツ演じるケイラの私服としてシンプルで都会的なカジュアルを選択。黒とグレーを中心に花柄やシナモンカラーをアクセントにしているが、全体的にはモノトーンが基調だ。
マイケル・ペーニャ扮するテレンスと、ロブ・ディレイニー扮するドゥブローは全編を通じてビジネスマンとして登場する。そこでマコッシュはスーツファッションを考案し、テレンスにはグレーとピンストライプ、ドゥブローには紺のスーツをしつらえた。 ベンの出で立ちはニューヨークの高級住宅街アッパー・ウエスト・サイドに着想を得たものだ。マコッシュはスエード、カシミア、薄手のコットン、ウールをおもな素材とし、シックでシンプルな装いをコーディネートした。また、ベンの花嫁となるプリータには立体的な刺繍や柄をあしらったシルク、レース、コットン、リネンの衣装を制作し、女性らしさとインド文化をさりげなく演出。プリータの婚礼衣装であるヒンズー調のウエディングドレスは、インド人のデザイナーから買い付けた。

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