プロダクションノート プロダクションノート

川 村 アニメーション映画としては、細田守監督、新海誠監督、新房昭之監督、長井龍雪監督と作品を作ってきました。世界に誇れるアニメーションの才能たちと映画を作っていきたい。次は誰だろう?と考え、荒木哲郎監督と仕事をしてみたい、と思ったのが発端です。
荒 木 今回の仕事のテーマは、自分だけでは届かない所に行くこと。自分たちが今後もオリジナルアニメーションを作っていく上で必要な目線を持った人が川村さんでした。
和 田 企画会議は半年以上やりました。毎回、川村さんに向けて荒木さんが企画を考えてくる。本当に、荒木さんは苦しかったと思います。どうしたら前に進むのか分からないまま、ひたすら企画会議を続けていたある時、荒木さんが、廃墟の東京を背景にちょっとメカが足されている人魚姫の絵を描いてこられたんです。その一枚の絵を見て、全員が「これはいけるぞ」と。
荒 木 廃墟だけど楽園。その世界観は僕も皆も好きですからね。
和 田 本当に現実が「バブル」の世界観に近づいてきて……。
川 村 怖いなと思いました。「バブル」はコロナが来るかなり前からの企画ですが、未知の泡が突然降ってきて、東京がロックダウンされ、立ち入りが出来なくなり……というストーリーに、現実がどんどん追いついてきてしまった。東京オリンピック時のコロナ感染対策が「バブル方式」と呼ばれたときには、本当に驚きました。
和 田 脚本をお願いした虚淵さんとはずっと、「いつか荒木さんと一緒にやりましょう」と話をしていました。その約束を果そうとオファーしたところ、快諾を頂けました。
川 村 泡の知的集合体が地球にやってきて、その中の1つの泡が意思を持ち、ある少年と恋をして……というプロットを、虚淵さんが話された。ああ、これで骨格が出来た! と思いました。タイトルも「バブル」だな、と。虚淵さんが書く物語は、そこで生きている人がとても切実なのが好きです。今回、虚淵さんにしては珍しい作品に見えるかもしれませんが、後半はどんどん虚淵節になっていく感じがしています。
荒 木 コンセプトがもの凄く優れているので、その後どういう作業を経ようが、虚淵作品になるんですよね。
和 田 「世界」と「ギミック」と「テーマ」を一個にまとめるということはとても難しいですが、これが出来るのが虚淵さんの凄さ。「バブル」ではその仕事を完璧にやって頂けたと思っています。
川 村 キャラクターデザインの小畑健さんは、荒木監督は「DEATH NOTE」、僕は実写映画の『バクマン。』でご一緒しています。小畑さんはお忙しい中ブルーブレイズだけでなく全トライブのキャラクターを描いてくださって、ありがたかったです。
荒 木 音楽は、澤野さんありきです。壮大なスケールの仕事が多いだろうから、逆にミニマムな澤野さん、全然違う澤野さんをこの作品では聴きたいから、とお願いしました。
和 田 今回の虚淵さん、小畑さん、音楽の澤野さん。キャストさんも含めて、荒木さんが今まで一緒に仕事をした人たちが集まってくれたので、荒木さんのアニメ人生全部が、一つの作品になったな、と思っています。
川 村 映画は、短期間に観客が集まるフェスだと思っています。今回は荒木哲郎フェスなので、ゆかりのある方はアーティストとしてみんな集まっていただいたという思いです。
川 村 パルクールはグローバルだし、人間のフィジカルの凄さが忍者感と相まって視覚的にも面白い。いつかやりたいなと思っていました。そうしたら企画会議中に、荒木監督がパルクールしている少年たちを描いてきて。
荒 木 僕とWITが制作するストロングポイントはアクション作品ですから、アクション作画を使える青春ラブストーリー、が大前提でした。パルクールは「進撃の巨人」や「甲鉄城のカバネリ」でも間接的に参考にしていますが、今回は直接的に参考にしました。パルクールアスリートのZENさんにお会いして、“彼の映像こそヒビキ”という位置付けで、彼の動作から色々導いていったんです。
川 村 新海監督から「荒木監督は本当に演出がうまい方」と伺っていて、絵コンテを見ながら納得しました。荒木監督は、アクションの中で感情が繋がっていくことが演出出来る、稀有な監督だと思いました。
和 田 「東京を舞台にしたパルクール」という作業、実は「進撃」よりも大変なんですよ。東京の現実をベースにした舞台を作って、そこをコースにしてという作業が、現実をベースにしてるからこそ、検証作業も含めて美術チームにとってはかなりチャレンジだったと思います。
荒 木 箱崎や秋葉原、渋谷、東京タワー、取材をもとに3Dモデルを作成して、想像していた以上に大変でした。建物を上から見た写真もドローン会社の方にたくさん撮影して頂いて、やっと美術さんに参考画像が渡せたんです。
和 田 映画ではそこも見て頂けるといいですね、ちゃんと作っていますから。
荒 木 あと、本作に登場する泡にも設定があって、シナリオ上の役割を視覚的に伝えていくという作業が必要でした。泡の属性をセリフで説明できないので、画だけで誤解なく観客に伝えなければいけないというミッションが難しかったですね。
川 村 虚淵さんが発明した「泡の生命体」という設定。泡の持っている色のグラデーションをうまくコントロールしながら、WITのチームが生命感を表現してくださったと思っています。
荒 木 泡状態のウタの、ヒトの姿になる前の声がけっこう可愛かったんですよ。シナリオ上ではそれが魅力的に映るか予想がつかなくて。画にして、音までつけてみなければ分からないこともあるなと、改めて思いました。
川 村 音の面では、りりあ。さんの、ハーッて呼吸するような音をサンプリングしています。ただの泡でなくてちゃんと知的生命体であると理解してもらえると、ユニークなんじゃないかな。
荒 木 その作品固有のユニークポイントを川村さんがこだわって入れ込む。どういうところにこだわったか、というのが今回、僕自身大きな勉強の一つでしたね。
荒 木 志尊淳さんの声を聴かせて頂いて、ご本人にもお会いしましたが、これまでに僕が見てきた既存の芝居にはない新鮮さがあって、作品に奥行きを与えてくれる存在でもありました。
川 村 荒木監督から「僕は志尊君の声ならば、自分事として作れる」というコメントを頂いて、それなら、と思いました。絵コンテを描いている時は自分の想像する声が鳴っているでしょうから。
荒 木 ウタに関しては「喋らないキャラ」でもあって、どうするのが良いか迷いましたが、主題歌の話から、りりあ。さんの情報が出てきて、候補になったんです。
川 村 ハミングを口ずさみ、赤ちゃんみたいなところから知能が徐々に進化してくるキャラですから、俳優がそれっぽく演じるのは、あまり面白くないなあと思っていました。りりあ。さんの歌声を聞いて、すごくいいなと思ったんです。
荒 木 マコト役の広瀬アリスさんは、お会いした時の人柄にとても好印象を持ちました。キャッキャとした女の子と科学者的な感じ、そのバランスが難しい。知的さも要るけど、ズボラなお姉さん感も必要で。
和 田 科学者という役柄だと落ち着いたキャラになってしまいがちですが、広瀬さんは「可愛いお姉さん」感がありました。
荒 木 主題歌を作ってくださったEveさんはりりあ。さんとの組み合わせで、川村さんにアイデアをもらいました。
川 村 この映画を世界に届ける時に、今の日本の音楽の最先端にいる人がいいなあ……って思っていたんです。Eveの作る音楽とアニメーションとの親和性は素晴らしいと思っています。その後、「呪術廻戦」の主題歌の「廻廻奇譚」ものすごいことになって、びっくりしました。りりあ。さんもそうですが、アニメを愛してくれているアーティストと一緒に作れたのが良かったと思います。

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