プロデューサーが社内に企画を提案した数日後、滅多にない偶然が起きる。桐谷美玲が所属する事務所スタッフが日本テレビを訪れ、桐谷主演で映画化してほしい作品があると持ち掛けたのだが、それが『ヒロイン失格』だった。原作連載時から、「ものすごく面白い漫画がある」と桐谷本人がブログやラジオで語っていたのは、ファンの間では有名だった。普段はどんな役がやりたいかなど主張したことがなかった彼女が、初めて熱望した作品だった。それまで製作スタッフは、主人公・はとりのキャスティングは難航すると予測していた。規格外の演技が全編にわたるので、女優サイドに相当な覚悟がないと、映画の魅力が半減してしまう。心の底から演じたいという桐谷美玲の情熱は、企画を実現する上での大きな原動力となった。クランクイン前の顔合わせの席で、英監督からはとりの“変顔”はCGに頼らず本人に実際にやってもらいたいが出来ますか?と念を押され、「100%OKです」と胸を張る桐谷美玲。実は映画化が決まる前から、はとりの変顔を真似して遊んでいた程、作品への思い入れは強かった。逆に脚本を読んだ彼女の方からも、原作コミックの中のいくつかのシーンや台詞から「これは入れてほしい」という提案があった程。
利太役は、英監督の“風のような男”というイメージに従ってキャスティングされた。どことなくとらえどころが無い風貌でいて、ある時スッと相手の懐に入って来る。傷つけるのも、傷つけられるのも怖くて、風のように人と接してしまう。しかし実は、表には出さない大きなトラウマを抱えてもいる。選ばれたのは、山﨑賢人。山﨑の繊細な表現力が、この難しい役を演じられるのは彼しかいないとプロデューサーと監督を確信させた。山﨑は脚本だけでなく原作コミックを深く読み込み、利太の魅力は普通にカッコいいだけではなく、少しヘタレなところが母性本能をくすぐるのだと分析。さらに劇中で利太が身に着けるピアスは、自分でイメージに合うものを探して来て監督に提案する程、利太という役を突き詰めて演じていた。
一方、弘光は英監督曰く“太陽のような男”。明るくその場を照らし、温かく人を包み込む。だが、実は見えないほど薄い壁を人との間に持っている。抜擢されたのは、『海街diary』『予告犯』『俺物語!!』など出演作が相次ぐ、坂口健太郎。専属モデルを務める「MEN’S NON-NO」をみて、まさに監督のいう「太陽のような」雰囲気を感じて抜擢された。また本人も、弘光の人との接し方が自分に似ていて共感できたという。