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2025.4.17
【ネタバレ全開‼】ポン・ジュノ監督 × 阪本順治監督!作品に込められたメッセージの奥底に迫る特別対談映像を解禁!

『ミッキー17』のポン・ジュノ × 『せかいのおきく』の阪本順治
出会いから25年、強い絆で結ばれた両監督の特別対談映像をお届けします!

「ミッキーが最後まで破壊されずに生き残ることの意味を持たせたかった」―映画監督 ポン・ジュノ
「『ミッキー17』を一番楽しめる国民性を日本人は持っている」―映画監督 阪本順治


ここでしか見られない!貴重な言葉の数々!
作品に込められたメッセージの奥底に迫る特別対談映像を最後までお楽しみください!

日本のハードワーカーたちよ、逆襲のときだ!
ポン・ジュノ監督最新作にして集大成『ミッキー17』  大ヒット上映中!



ポン・ジュノ監督×阪本順治監督 特別対談全文 (以下敬称略)

・一言ずつご挨拶をお願いします。
阪本順治:
僕はもう感謝しかなくて、『せかいのおきく』を韓国で公開したときにポン・ジュノ監督が登壇して僕の作品について語ってくれたことが韓国の興行成績に大いに役立ったということで、感謝しかないです。

ポン・ジュノ:
こうしてまた再会できて本当に嬉しいです。私は作品が日本で公開されるたびに、お兄さんが私の新作をどんなふうに観てくれるのかと想像しながら緊張もしているんです。(日本語で)緊張です(笑)。 阪本順治: 同じことを返します。僕の映画を観て、時には長文で感想を送ってくれたりして。物語を深く読んでもらえるところ、そして日本の監督と違い別の視点から観てもらえることは嬉しいなと思っています。

ポン・ジュノ:
『半世界』や『せかいのおきく』の時にもいろいろお送りしたりお話をしたりしていますけれども、深煎りしたお茶のように体に染み渡る、そんな映画だったと思います。だから作品を観て監督にメッセージを送りたいという気持ちになったと思うのですが、いざ私の作品となるとそんな風に深い味わいが出ているのかなと自分に問い直してしまいます。

阪本順治:
またそんな謙遜して…(笑)。

・(阪本監督へ)『ミッキー17』の感想をお願いします。
阪本:
ポン監督の視点はいつも社会的地位のない名もなき人を主人公にして、けれどもめげずに生きていく、そういう骨子は何も変わらないと思いました。退廃した世界で何度も死んでは生き返るという運命を背負った主人公を軽妙にかわいらしいタッチで描いた、絵本のような映画だったなと思います。僕は映画監督の仕事で一番大事なのは俳優の顔を撮る事だと思っています。だからこそ今回の映画をすごく楽しめたのはミッキーを演じたロバート・パティンソンの一喜一憂がとても魅力的だったからだと思います。常に、彼は苦境の中にいるものの、その表情の豊かさから社会的矛盾や葛藤などのメッセージ性の高いものを受け取りながら楽しみました。映画が終わり、たくさんのスタッフとキャストがエンドロールに出てくるときに、ちょっと泣きそうになりました。なぜかというと僕はポン監督がデビューしたときからお付き合いをしていて、普段は非常に賑やかでユーモラスな人なのですが、実は自分がやりたいことを徹底してやるために自分を追い込んでいくというか、その葛藤の抱え方というか。時には自分を傷つけるくらいに背負ってしまうという一面も知っているので。観終わって楽しかった一方で、どれだけの苦労をしたのかと思うと、親心じゃないけれど…、ちょっと泣けてきちゃった。

ポン・ジュノ:
『殺人の追憶』や『母なる証明』を撮った頃は、すべてのスタッフの名前を憶えていて彼らの名前を呼ぶことができました。でも『スノーピアサー』や『オクジャ/okja』を撮り始めたあたりからスタッフの人数がとても増えて『ミッキー17』でもそうですがとても名前を覚えることができないくらいに膨れ上がっていきました。スタッフの名前をわからない状態で映画を撮るという感覚があるとは思います。漠然とした気持ちになることもありますし、そこから来る孤独やもどかしさもありますが、徐々にそれにも馴染んできたような気がします。でも再び『殺人の追憶』の規模のスケールに戻って撮りたいという気持ちはいつもありますし、また撮る事になるだろうと思います。

阪本順治:
(ポン監督は)いつも発明をしようとしていると思うんです。先人の映画や時には絵本や漫画にも影響を受けながら、その中で自分なりの発明をしようとしている。もっと大げさに言うと一人で産業革命を目指しているような人かなというのがあって、そういう意味では健康的な生活をされているとは思うのですが、どこか病んではいないかと、いつも心配しています。

ポン・ジュノ:
もう少ししたらサバティカルイヤーを過ごせたら良いなと目論んでいます。ただ、今取り組んでいるアニメがかなりタフな作業なんです。もしかしたら2027年くらいには休めるのではないかと思うのですが、それが実現すれば監督の家の周りを彷徨っているかもしれません。家の近くのお蕎麦屋さんで偶然遭遇するかもしれませんよ(笑)。(日本語で)讃岐うどん…とんこつラーメン…(笑)。

阪本順治:
日本人は『ミッキー17』を一番楽しめる国民性を持っていると思っていて、韓国でヒットしているのは聞いていますが、やはり日本人に非常にふさわしい娯楽映画だと思います。なぜかというと僕らは小さいころから漫画などたくさんのフィクションに馴染んできています。手塚治虫、大友克洋、つげ義春、藤子不二雄。アンダーグラウンドからメジャーのおとぎ話に馴染んできた僕らだからこそ、この映画は非常に日本人に向いているのではないかと思っています。

・(阪本監督へ)『ミッキー17』を御覧になって何か質問したいことがあればお願いします。
阪本順治:
映画は絵と音でできていると思うと、その絵の部分に注目しました。美術的にはデザインとか。非常にアナログであったり、懐古的であったり、レトロであったり、そのビジュアルのデザインは全部ポン・ジュノ監督のアイデアですよね?

ポン・ジュノ:
今回はヨルゴス・ランティモス監督の作品を担当されていたフィオナ・クロンビーさんという美術監督とご一緒しています。本作の7割は宇宙船の中なので、宇宙船の造形が重要で、序盤からいろいろお話をする中で私がお伝えしたコンセプトは、SF映画によくあるファンシーな宇宙船ではなく、古い貨物船やあまり掃除が行き届いていない汚い工場のようなものにしてほしい、ということです。未来の話ではあるけれど依然として人間は愚かで情けなくもあり小汚いという、そういうトーンで作っていきたいということを話して、そのトーンに合わせてデザインをしていただきました。高級ホテルやデパートに行くと私たちが見る空間はとても華やか輝いていますが、「関係者以外出入り禁止」と書かれたドアを開けた奥の空間というのは、すごく荒々しい通路になっていて天井にはパイプがむき出しになっていたりします。そこは関係者しか入れない空間ではありますが、宇宙船の中もそのような空間にしたかったのです。

阪本順治:
僕がこの業界に入った最初は美術の助手だったのでそういうところに注目してしまうのですが、僕がすごく好きだったのはミッキーの部屋のドアに開閉レバーの傷跡がついているところ。ああいうのが大好きなんです。

ポン・ジュノ:
それに気づかれるなんて(笑)。

阪本順治:
僕は美術出身なので、例えば貧しい人の家のセットでは窓を一度割れたことにしようとして、ビニールテープを貼って過去に子供がボールか何かで割ってしまった跡を作ったりしてきましたし、監督になってもそういうことを僕は常々実行してしまうのですぐに気が付きました。

ポン・ジュノ:
例えば家の部屋にかかっていた額縁を外すと跡が残りますよね。私もそういう人間的な痕跡のある空間を作りたかったんです。実際に大きなネズミを運び込んで、宇宙船の通路をネズミが走るところを撮ろうと言ったのですが、コロナの時期ということもあったせいか制作部で難色を示されてしまい実現しませんでした。SF映画史上初、ネズミが宇宙船の中を走り回っているところを撮りたいと思っていたんです。

阪本順治:
僕が以前ソウルでこの作品のことを聞いたら「宇宙船の中にネズミが走り回るような映画」だと言っていたけれど、それはコロナでやめてしまったんですね。

ポン・ジュノ:
この映画はロンドンで撮っているのですが、イギリスのネズミはとても大きいんですよ。ウサギかと思うくらいの大きさで、裏通りで実物のネズミを見てちょっとおじけづいたということもあります(笑)。

阪本順治:
近未来においてクローンを作ることは倫理的に許されない。でもミッキーは、宇宙の危ない仕事に従事するたった1人だったらいいんじゃないか、…という判断のもとに生まれたキャラクターですよね?そう考えるとゾッとするのは、たった1人ならいいんじゃないかと皆が思ってしまったということ。だから「死ぬってどんな気分?」と聞いてくる。誰かが犠牲になるしかないのだから仕方がないというようなものの考え方は、昨今と地続きだと思っています。面白おかしくだけど、そういうことも描いていたのだなと思いました。

ポン・ジュノ:
私もそれは重要に考えていた部分です。共同体のすべての人たちが危険で汚くて死ななければならない仕事を1人に押し付ける。「君は死んでも仕方がない、契約書にサインをしたのだから。」「それが君の仕事なのだから。」と、自分たちの責任や自責の念から逃れようとします。反対にクリーパーたちは、彼らの子供1匹が死に面したときに、その1匹を助けるために共同体全体が動き雪原に飛び出してきます。そういう人間の世界とクリーパーの世界を対比させたかった。繰り返し1人の人間を犠牲に死なせて自分たちは安全な場所にいる人間の世界と、1匹のために共同体が動いて助けようとするクリーパーの姿を対比させながら、どちらがより他者に対するリスペクトを持つ高貴な存在なのかというのを見せたかったんです。

阪本順治:
ポン監督の映画の特徴は善悪を単純化しないことや、名もなき人を主人公に置くこと。今回も非常に楽しんで観たけれど終わってから受け取るものは本当の意味でのハッピーエンドではなかったと思いますし考えさせられる読後感は変わらないと感じました。

ポン・ジュノ:
ミッキーはずっと死を繰り返し、死ぬことが職業でした。悲劇といえば主人公が死ぬことだと思いますが、死なせて終わることにあまり意味がないように思えました。それに彼は善良な青年で、そんな彼が破壊されるところも見たくなかった。本作の結末ではそういう意味を持たせたかったのです。