『レミニセンス』学生向けティーチイン付き試写会を開催!
映画、映像制作の世界を志すニューシネマワークショップの受講生、デジタルハリウッド大学の学生の皆さんに一足先に作品を鑑賞していただき、鑑賞後、伊藤智彦監督、上田誠さん、石川慶監督、それぞれのティーチインイベントを開催!
第1回:伊藤智彦監督(アニメ『ソードアート・オンライン』、『HELLO WORLD』)
「ファースト・カットは技術力で見せろ」
伊藤監督は映画について「CMや予告を見て、『インセプション』的なものを想像していたのですが、もっとフィルム・ノワール的な雰囲気で、SFはあくまで味付けだったんだなと思いました。」とコメント。
これまでご自身も『ハロー・ワールド(HELLO WORLD)』など、数多くのSF作品を世に生みだしている監督にとっての”SF感”を聞かれると、「クリストファー・ノーランの作品はまさにSF的だと思いますね。ノーラン兄弟は<時間>を描くのが好きだと思いますが、この映画での<時間>というテーマに関しては、非常に丁寧に作られていたから混乱すること無く観られました。」と続けました。
鳥のような目線で、海から徐々に水に沈んだ街へと、吸い込まれていく映像で描かれた、美しすぎるオープニングで始まる本作。このオープニングの話に触れると、「映画を作るときは、ファースト・カットは技術力で見せろ。」という自身が心がけている教訓を話し、この教訓は「映画の冒頭5分は、ドラマ的なものでは視聴者がついてこられないため、技術を見せろ」という、『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)などでの助監督時代に、師匠である細田守監督からの教えである、という貴重なエピソードを明かしました。
さらに「TVの場合は小さい画面で見る場合が多いので、どちらかというと会話中心となる。いかに話を進めていくかが肝ですね。」と、アニメ監督ならではの、映画とTVアニメの違いについてもコメントしました。
本作を観て触発されたところについて聞かれた監督は、「この映画の舞台は、海が近くて、機械に入る時も水の中に入って、街も水浸しで、そこにあるメタファー(暗喩)は一体何だろう、と気になりましたね。そこにはきっとこだわりがあると思うので、そういったメタファーを存分に入れるという点は参考にしようと思いました。アニメの場合は狙って入れない限りは、勝手に映り込むといったことはあり得ないし、計算しないとそういった成分が出て来ないので。」と自身のアニメづくりに向けた、新たな意欲を見える一面も!
映像業界を夢見る学生からの質疑応答に答え、「今の世の中、自分で映像を作る環境がいっぱいあるから、そうして注目されるという道もあるとは思うけど、制作会社などに入って、駆けあがっていくのも、師事する人を見つけられたり、現場の仕事の流れや作業内容を知っていくことも出来たりするので、それもいいかもしれませんね。」とエールを送り、和やかな雰囲気の中イベントは終了しました!
第2回:ヨーロッパ企画主宰・上田誠さん(『サマータイムマシンブルース』、アニメ『四畳半神話大系』)
「古いものも新しいものも含めて《映画》の面白さを描いている」
一足先に映画を鑑賞した上田さんは映画について「面白かったですね~。SFって古式ゆかしい語り口で進んでいったりするんですけど、SFというガジェットというか装置があるからこそのロマンスとかエモーションとかがあると僕はグッとくるんです。この映画にはそれがありましたね。SFならではの情感が感じられました」と絶賛!
またご自身の作品を例に出し、「ハイファンタジーとローファンタジーでいえば自分はローで、日常の中に1本だけSFの線を入れるって感じだけど、この作品は水没した世界の中で人の記憶に浸るというハイな方のSFでしたね。SFって狭いジャンルだけどお金がかかるんですよね。クリストファー・ノーランもそうですけど、映画の中でハイSFをやりきってポピュラリティもあってというのはすごいと思いますね」と、クリエイターとして他のノーラン作品も含めて改めてその凄さを実感したとコメント。
記憶を追体験していく構造を含めて、『レミニセンス』における“時間”というテーマの扱い方をどう感じたかという学生からの質問には、「人の記憶を掘り下げて、それを手掛かりにしていくとうのは、探偵もので聞き込みしていくのとかと何が違うんだろう?と思いながら見ていたんです。でも記憶の映像を360度で観られる装置を使うことで、それでしか描けないやり方をしているなと思いましたね。第三者の目線でも見れるようになっているという仕組みが活きていました。記憶って防犯カメラとかと違って本人の認知の歪みによって変わるっていうのがよく描かれることだと思うんですけど。これはカメラ的というかかなり客観的に扱われ方をしていて珍しかったですね。そのドライな感じが独特だなと思いました」とこの映画ならではの描き方が印象的だったと語りました。
また、物語に関しては 「物語の中の終着点が僕の好きな感覚でした。あとは水に沈み行く世界でどの時間を選んでいくのかという世界観が、今いる現在の世界も昔よりも未来に良いことが待っているというよりは不安の方が大きくなっている感じがするので、現代的に感じられましたね」と、コメント。
さらに学生からの質疑応答では“今の世の中でノワールな雰囲気の映画に魅かれない人もいると思うのだが、どう思われますか?”という厳しい質問が飛び出したものの、上田さんは「映画って元々は白黒だったし、暗闇の中で映画を観る、光を観るものだったと。その闇と光の対比の中で人の闇の部分を掘り下げていくノワール的なものを観たりして。感覚としてそれが元々の映画だったんじゃないかなと思うんですよね。それが徐々にカラフルになって良くも悪くもテーマパーク的な楽しさを求める感じになってきていると。その中でこの作品は古き良き映画の良さを残しながら、現在のスケールで描くとこうなりますよねという、古いものも新しいものも含めて映画というものの面白さを描いている作品になっていると思います」とそれこそが本作のユニークネスであり魅力であると回答し、イベントを締めくくりました。
第3回:石川慶監督(『Arc アーク』『蜜蜂と遠雷』)
「SFはもう未来の話じゃないんだなというのをこの映画を観て感じました」
本作を2回鑑賞した石川監督は映画について、「2回目観たら色々なことが分かりました。1回観た時も面白いなとは思っていたんだけど、すこし分からないとこもあったのでもう1回観たいなって思っていたんですよ。自分が初めて観た時に『あれって何だろう?』って見逃してきたものが、2回目の鑑賞でちゃんと辻褄が合ったので、発見しながら観る作品ですね」と、何度も鑑賞して楽しむことが出来る作品だと絶賛!
また本作は水に支配された世界を舞台にしており、石川監督もまた『Arc アーク』、『蜜蜂と遠雷』といった作品でビジュアルを用いた演出が印象的であることをMCから聞かれると、「冒頭のオープニングショットを日本でやろうとすると鼻で笑われて実現しないカットなので『良いな』と思いながら観ていました。SFにおける“記憶”と“水”との関連性って、最近は密接に繋がってきているような気がしますね。SFって堅い無機質なものというイメージだったのに、最近はもう少し有機的で柔らかいものに結びついているような気がしているんですよね。“水”と“記憶”の親和性はあると思っていて、たぶん母親の羊水のイメージとして人が原始的なところで持っている記憶と結びつくのかなって思いますね」と劇中でも印象的に描かれている“水”と“記憶”についてコメントしました。
そして、本作に製作でジョナサン・ノーランが参加していることも含めて、ノーラン兄弟の作品について聞かれると「ノーラン作品に出てくる発明品って、従来の考え方だと絶対に結びつかなくなってしまうくらいに空間的にも時間的にも隔たったとしても、『まだ繋がれるよね』っていうのを映画の後半にやってのけるのが凄い。『なんという物語の構築方法なんだろう』って感心してしまいます。本作でもあるシーンが凄く“ノーラン作品っぽさ”があってエモーショナルに結びついているので凄いんですよ。あとプロダクションノートを読んでいて、リサ監督のこの作品を書くきっかけが『人は色々な物事の良し悪しを決める際に終わり方ばかりを見る。人間関係なんて終わり方だけを見るとハッピーエンドなんて存在しない。最終的にはどちらかが死ぬか、別れるか』ということがきっかけだったと書かれていて面白かったですね。でもそれはどこを切り取るかでハッピーエンドにも変わり得る。それって“記憶”の話でもあるし、映画の作り手としても思う所があって、そうしたコンセプトの段階で物語を紡ぎ出す腕力が凄い。『こうゆうコンセプトで面白いものが出来るかも?』というものを志高く作っていく姿勢に一番共感しますね」とノーラン一兄弟が作る作品の凄さを説明しつつ、本作で初監督を務めるリサ・ジョイの監督としての姿勢に共感したと明かしました
そして学生からの質疑応答では“石川監督がノーラン映画を観ているときに何を考えてますか?”という質問に対して、「ノーラン映画って本当に難しいんですよね。ついていくので精一杯で。『TENET テネット』は途中で考察している間がなかったですね。自分は元々物理が好きで、多次元宇宙って科学的にあり得て、SFとして面白いので、いつかチャレンジしたいなって思う分野なんです。でも、どうにもこうにもストーリーにならないんですよ。けど、そこをちゃんとキャラクターを動かしながらストーリーにして、最後エモーショナルに仕上げるお手並みが鮮やかだなって思いながら観ていますね」と映画監督であるからこその視点で回答。最後に石川監督は「SFっていうものって昔は遠い世界の話をするのが定義だったけど、今は現実が追いつき始めていて、SFってもう未来の話じゃないんだなというのをこの映画を観て感じましたね」とSFを取り巻く環境も変わってきていると語り、イベントを締めくくりました!
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