WIND BREAKER

Production Notes

新しい不良映画ができるまで

原作は、連載からわずか4年で全世界累計発行部数1000万部を突破した大人気漫画。プロデューサー陣は連載スタートからほどなくして原作と出会い、これまで様々な名作が生まれてきた不良漫画というジャンルの中でも「新しい発想と、新しい魅力がある」と衝撃を受けたという。

加茂プロデューサー(以下、加茂P)は「桜という孤独な青年を中心として敵も味方も入り乱れ、手を取り合っていく。一人では乗り越えられない壁も仲間となら壊すことができるという展開は、男女問わず熱くなれる作品だと思いました」と街を守るために不良たちが一つになっていくストーリーに胸を掴まれた。西村プロデューサー(以下、西村P)は「隅々まで見渡してみても、個性あふれるキャラクターのそれぞれにアツいストーリーがある」とキャラクター勢にも惹かれ、「胸アツで新しい不良漫画に、やる気と希望に満ち溢れた役者陣と挑みたい」と奮起。魅力的なキャラクターにしっかりと寄り添いつつ、未来へと前進する役者たちのパワーを注ぎ込むことで、新たな不良映画を誕生させるべく走り出した。

その想いに呼応してくれたのが、原作者のにいさとるだ。制作陣は「どのようにしてこのキャラは生まれたのか」「なぜこの見た目をしているのか」と細部に渡って質問をぶつけ、脚本開発から参加したにいは漫画には描かれていない各キャラクターの背景まで回答。ファンの思いを大切にしながら衣装やセリフ、ラストのアクションにあらゆるアイデアを加えるなど、原作者と濃密なコミュニケーションを重ねて脚本が完成した。

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「ヘアスタイルや衣装も含めポップでカラフルかつ、クールなキャラクターを実写の不良映画として映し出すのはとてもハードルの高いこと」だと西村P。ウィンブレのキャラが街を舞台に暴れまくる画を撮り上げるには特別な才能が必要だと考えた制作陣は、海外で映像を学んだ経験があり、みずみずしい青春劇とセンス溢れる映像表現に定評のある萩原健太郎監督に白羽の矢を立てた。さらにアニメ業界で闘う人々を描いた熱血エンタテインメント『ハケンアニメ!』で脚本を務めた政池洋佑萩原監督がタッグを組むことで、圧倒的な熱量を持った不良映画を目指した。

そして実写ならではのこだわりと言えるのが、風の表現。タイトルにもあるように、本作では風が重要な意味を持つ。キャラの心情を風からも表すことで、観客は彼らのドラマに巻き込まれていくような感覚を味わえる。撮影現場では風速25km/s超の爆風を吹かせ、その中でアクションにもチャレンジしている。特機チームが一丸となって風を作り、キャスト陣はエネルギッシュに躍動。その奮闘もアクションにすさまじい勢いを加えている。

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活力あふれる若手が勢揃い!

個性豊かなキャラクターを実写として登場させる上では、原作を踏襲しつつ、「コスプレにしないこと」を重視。キャラクターの人生を背負い、生身の人間として演じられる俳優が欠かせなかったと加茂P西村P。俳優本人からにじみ出る、どこまでも羽ばたいていきそうな期待感と新鮮味もキャスティングに欠かせない要素となった。

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水上恒司には、「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」の公開直前、真っ直ぐな青年像を演じられるだけでなく、アクションもできる役者として満場一致で桜役をオファー。監督や制作陣の熱意を受け取った水上はクランクインの3か月前からアクション練習に励み、個人レッスンののち、クライマックスで対決することになる濱尾ノリタカとガチンコで組み合いながら練習をすることで、心と体から桜の役作りを積み重ねた。桜のトレードマークでもある白黒のヘアスタイルに合わせて、地毛を何度もブリーチを重ねて染め上げ、オッドアイのカラコンを装着して撮影に臨んでおり、「どこか孤高で、自分の世界を持っている人という雰囲気も桜にぴったり」(西村P)と太鼓判を押す。
防風鈴が並んだ時のシルエットを原作に合わせることにもこだわりつつ、役者自身の持つ魅力ともシンクロするキャスティングが実現した。加茂P「楡井役の木戸大聖さんはとてもかわいくて。温かな人柄が楡井と重なり、地毛を染めて現れた時に『楡井だ!』と現場が盛り上がりました。蘇枋役の綱啓永さんは華があって、キャストだけでなくスタッフなど誰にでも話しかけにいくなど、コミュ力の鬼。もともと原作ファン&蘇枋推しで、そういった意味で のプレッシャーもあったと思いますが見事に演じ切ってくれました」と称え、「初演技ながらオファーをとても喜んでくれたのが、JUNONさん。緊張していたものの、 ダンスをやられているのでアクションの覚えも速く、さすがの動きを見せてくれました。柊役の中沢元紀さんは、こんなにステキな方がいるんだと思うくらい優しくて、男気もある。撮影の合間も一生懸命にアクション練習に励んでいました」と活気のある現場を回想。梅宮役の上杉柊平は、「“みんなの兄貴”と慕われる包容力がある」という。撮影の合間には、風格がありつつどこかいじられキャラでもある上杉を中心に和気藹々とすることも多く、そんなところも防風鈴そのもの。八木莉可子は透明感がありながらサバサバ系の性格と、こちらもことは役にベストマッチ。また敵対する獅子頭連の頭取・兎耳山役の山下幸輝は、「とてもかわいらしいのに、瞳の奥が笑っていない、得体の知れなさを宿すお芝居のできる方」だと加茂P。副頭取の十亀は減量&下駄を履いて日常生活を過ごす役作りに挑み、「クライマックスでは水上さんと息を合わせて白熱の戦いを繰り広げてくれました。水上さんと濱尾さんが親友のようになっていったのも、とても印象的」と証言する。濱尾とアクションを交わす中で、水上は劇中にも登場するセリフである「拳は時に、言葉より相手を知る言語になる」と実感できたと語っている。

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キャラクターの感情を魅せるアクション

クライマックスには、防風鈴と獅子頭連の激しいぶつかり合いを堪能できる。スクリーンに叩きつけられたのは、刺激的で迫力がありつつ、必殺技や派手な画を披露するためのアクションではなく、キャラの内面やそれぞれのエモーショナルな関係性を魅せるアクションだ。

加茂Pは「本作の最大コンセプトである、胸がアツくなるような物語を作り上げるためには、アクションにもキャラクターの感情が乗っていないといけない。梅宮のセリフにもあるように、“拳での対話”を見せていくことにこだわりました」と吐露。

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「映画のラストには、スカッとしたものをお見せしたい」という西村Pだが、萩原監督は観終わった後に「ケンカをしたくなる映画」ではなく「仲間を思って、肩を組み合いたくなる映画」にしたいと意思を述べ、原作の大きな魅力であり、新しい不良映画としての軸にもなるその思いは確実にスタッフや役者陣に伝播していった。桜だけではなく、兎耳山、十亀もまた、自らの弱さや不格好な部分を必死に隠そうとしてきた。気づかぬうちに生きづらさを抱え込み、身動きできなくなっていた人たちだ。 そんな彼らが少しずつ心を開き、互いに手を差し伸べていく。その姿は、恥ずかしさや怯えも、仲間と共に分かち合えば未来へと踏み出せるのだと、観客の胸に語りかける。沖縄での撮影はどこか合宿のようでもあり、キャスト陣はみんな下の名前で呼び合うようになるくらい絆を深め、まさに「仲間っていいものだ」という充実感と共に撮影を終えた。ものづくりを通して芽生えた結束力までが、映画に投影されている。

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