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― Special Interview ―
小松菜奈 × 坂口健太郎 × 藤井道人監督

※ネタバレを含んだ内容となっております。ぜひ本編鑑賞後にご覧ください。

公開から3週目を迎え、累計動員数は120万人を突破!興行収入は15億円を記録する大ヒット!SNSでは連日感動の声が届いており、1回だけではなく、複数回リピートする鑑賞者もいるなど公開から勢いが増すばかりの『余命10年』ですが、大ヒットを祝して撮影の舞台裏エピソードなどが満載の<ネタバレあり>の特別鼎談が実現。小松菜奈さん、坂口健太郎さん、藤井道人監督の3名が約1年の撮影を振り返ったここでしか聞くことのできない充実した内容となっています。貴重なインタビューを是非ご覧ください。

Q:撮影を通してみてどんな風にお互いの印象が変わっていきましたか?

藤井監督:(初めてお会いした時)坂口君は金髪だったんですよ。その時は一言も喋っていなくて、クールな感じでイケメン‼って思いました。カッコイイなって。

坂口さん:えぇえぇ。

藤井監督:(笑)その後ちゃんと喋る時間があった時にどんな方なんだろうと思っていましたけど、あの時は猫を被ってた(笑)凄く真面目な印象でしたね。

坂口さん:そうだったかもしれないですね。現場の空気感を考える癖があって、どうしても「あ、初めまして…」みたいな感じでしたね。

藤井監督:それからどんどんとジョークを言う坂口君に変わっていきました。
こまっちゃん(小松さんの愛称)と初めて面談させてもらった時は、実は俺めちゃくちゃ緊張していて。何年も前にオファーさせていただいた作品があって、結局それは映画化していないんですけど、その時手紙を書いてたんです。絶対その事は覚えていないだろうなと思っていたら、まだ持っていてくれて…そんな良い人います?!

小松さん:いやいやいや!(笑)

藤井監督:そんなこともあり、すごいご縁を感じたわけなんです。よくこまっちゃんも言ってくれていますけど、体育会系の部活の先輩後輩みたいに一緒に戦い抜いた戦友みたいな感じですね。

Q:小松さんはいかがですか?

小松さん:オファーをいただいた時にお話させていただいたんですが、一つ一つがとても丁寧でストイックで熱い方なんだなと話している時の目で感じましたね。その熱量にグッと来てウルっとしちゃって…ヤバい!と思ったんですけど、その時マスクしていたので気づかれていないだろうと思っていたらバレバレで(笑)監督には「あの時さ~なんか泣きそうになってなかった?」って突っ込まれたりして(笑)作品に入る前からどんな小さな事でも何でも言い合える先輩後輩みたいな関係性でいてくださったので、私もすごく魂を燃やしたいなと思える方でした。

小松さん:坂口君との初めましては衣装合わせの時でしたっけ?

坂口さん:そうだったと思う。衣装合わせが終わって、その合間の時間に監督との打ち合わせ場所で「初めまして」って。

小松さん:その時はお互いに「あ、どうも…」みたいな感じでしたよね(笑)なので、これから撮影が始まっていく中で、不安とまではいかずとも、どんな感じにお互い距離を縮めていけるのかなと思っていました。でも本当に良い意味で普通な方ですし、ふざけるような一面もどんどん見ることができて、居心地の良い方だなと思いましたね。今はずっとふざけ倒していますけど(笑)そんな風に人を笑顔にさせてくれて、すごく場を盛り上げてくれる、楽しい方だなと思いました。

Q:坂口さん、それだけ居心地が良い現場だったんですね。

坂口さん:本当に居心地は良かったですよ!自分ではない役を演じ生きるという中で、皆が意見を言い合える現場と環境を藤井監督が作ってくれました。なので、ピースが嵌ってないというか、心に落ちていない感覚で演じるということがなく、普通の自分でいれたと思います。この作品を撮影していく中で“監督と僕の共通の友達が和人“みたいな感覚だったんです。だから「こういう風に和人は考えると思う。動くと思う。」という断定をされる事が無くて、「和人だったらどうするかな?」という風に監督と僕で話しながら和人像を作っていきました。監督も当事者になってくれるし、和人と茉莉の事を一番に考えてくれていました。言葉が合っているか分からないですが、とっても大きな味方がいてくれたから作品を撮っていて思う”坂口健太郎でいる時の苦しさ”だったり摩擦、軋轢みたいなものは感じないで現場に飛び込んだ感覚はありましたね。

Q:ありがとうございます。それでは具体的なシーンについてお話をお伺いしていきたいのですが、まずは「ロッジでの別れのシーン」について振り返ってみていかがでしたか?

藤井監督:朝がめっちゃ早くて、時間も無くて日が出る前の薄暮のタイミングを狙っていたので、一時間位しか時間がないんですよ。一回位テストして、後はすぐ本番でカメラ回して…。

小松さん:緊張感が凄かったですよね。

坂口さん:なんか僕一回フラフラになっちゃいましたよね?

藤井監督:なったなった!

坂口さん:朝ロッジで目覚めて、茉莉ちゃんがいないと気付いて追いかけに走って…自分でフラフラになっている感覚はなかったんですけど、過呼吸みたいになって揺れちゃって。監督は、例えば時間だったり日だったり様々なデッドがある中で、まあまあ撮れたねじゃなくて、ちゃんと“あともう一歩先”を求めてくれる方なんです。なのですごく気合いも入るし、でも入り過ぎると空回りするし、実際自分の雑念が入っちゃったりしてそれはそれで和人の感情が出きらない時があるし…。なので、あのシーンの撮影は大変でしたね。

藤井監督:普段はどっちかというと坂口君の方がスパンっと一発で和人を表現してくれて、茉莉ちゃんの方を何回も何回もこういう表現あるんじゃないかってトライする事が演出としても多かったんですけど、あそこは逆で茉莉の方は一回しか撮らなくて…俺もドキドキしながら撮ってた気がします。

坂口さん:あの日濃かったなぁ~あの後、だってさ!

小松さん:そう!あの後、お母さんとのシーン(茉莉が母親に正直な想いを打ち明けるシーン)だった!

藤井監督:そう!後半はスケジュール上も地続きで撮ったんですよ。

小松さん:別れのシーンを撮影した現場から移動して、お母さんとのシーンを撮りましたよね。凄い一日だったなぁ。

坂口さん:凄い印象的だったのが、別れのシーンだけじゃないんですけど、監督が、「茉莉ちゃんはまだ泣いちゃいけない。まだここでは溢れちゃいけない、溢れない方がいいと思う」と言っていたんです。いわゆるエモーショナルな場面において、そういう指示ってあんまり無いじゃない?

小松さん:うん。

坂口さん:だから、逆に泣かない切なさというか、和人の前では泣けない辛さとかをすごい感じましたね。

Q:小松さん自身は監督から涙を堪えてくれといった演出についてはいかがでしたか?

小松さん:あそこは和人の感情が溢れるシーンだったので、茉莉は自分の病気や余命についてのことを告白するんですけど淡々とはいかなくて、感情的にもすごく絶妙な所でした。ずっと感情を失わないようにと思いながらやっていたんですけど、台本を読んでいるとこのシーンは想像がつかないなと思っていたんです。でもゲレンデでの別れのシーン辺りを撮っていくとだんだん自分の気持ちもそこに繋がってきてちゃんと集中できたし、さっき坂口君が言っていた過呼吸の姿も見ていたこともあって、お互いに化学反応が生まれて、お互い惹きつけられる感覚がすごいありました。例え画に映っていなくても、ちょっと手を握ってみたりとかそういう事が必要だったシーンでもあったので、早朝と現場の緊張感もあってどっと疲れましたね。

Q:監督、凄い撮影だったんですね…

藤井監督:そうですね。今思えば涙が出ちゃうのに涙は出さなくていいって、じゃあお前がやってみろよ!って話ですよね。無理な事を沢山お願いしたなって今反省しています。

坂口さん、小松さん:(笑)

Q:続いて、ラストの茉莉が思い描いた未来を描写したシーンについて振り返っていただけますでしょうか。

坂口さん:夏のシーンはクランクインの初日とかでしたよね?

小松さん:台詞が無く全てアドリブで、ただただそこで楽しんでいる二人をちゃんと描いているからこそ、楽しければ楽しいほど他が切なくなってくるねという話をしていましたね。この後に辛いシーンの撮影が始まっていたんですが、ちゃんと記憶が鮮明にある分、こうであって欲しかったなと思っていたりしていました。出産シーンの時は、五日前に産まれた赤ちゃんを抱かせてもらったんですけど、どんな気持ちになるのかなと思って実際抱いたら、ふわふわしていて天使ってこういう事だ!命って尊いなって、自然と涙が溢れる不思議な気持ちになったシーンでした。でもそこに坂口君が走ってくるという演出があったんですけど、その時にもう和人が産んだのかっていうレベルで誰よりも汗をかいていて(笑)

坂口さん:あぁ~掻いてたかもしれない。分娩室って温かいし、走ってきたのもあって確かに一人だけ汗だくだった気がする(笑)

小松さん:なので、そういう願いの描写は切ないなって思っていました。

坂口さん:幸せであればあるほど寂しくて切ないし、勿論撮影している時はこれが茉莉の夢で、実際はこれからこんな事が起きるって理解はしているけど、そこまで幸せにやんなきゃというのはあんまりなかったんですよ。ただ単純に素直に楽しんでいたので後から初号を観た時に、鑑賞者の立場として今までの茉莉と和人の軌跡を追ってきた人間からするとグッと来てしまいましたね。和人って後半の後半まで事実を知らないじゃないですか。ずっと知らなくて、病気をしていたのも治ったんだよと言われて、茉莉ちゃんはもう大丈夫なんだと思ってずっと時間を過ごしてきたから、ある種何も知らないままで良かったんですよね。色んな裏の事を考えないで済んだので、ただ茉莉ちゃんをシンプルに愛していたと思うんです。でもシンプルに愛するってすごい難しいなと思っていたけど、先ほど監督が仰っていた「和人の前ではまだ茉莉ちゃんは涙を出さないで」だったり、「和人にこういう言葉をかけているけど実はこういう思いを持っている」という一つの物語をずっと小松さんは茉莉として演じなきゃいけなかったと思うので、彼女はもっとすごく大変だったろうなと思いましたね。

小松さん:茉莉は表と裏の感情が必要で、和人が言ってくれた言葉はすごい嬉しいけど、でも現実も考えている冷静な部分があったので素直に反応出来ないというか、ぐっと堪えて、自分の中で嚙みしめて裏の感情を出していました。ずっと黙っているのが続いてきたからお母さんとのシーンがすごく効いてきたというか…自分が本当に心の中で思っていた“生きたい”という言葉を素直に吐き出せたシーンだったので感情が爆発しました。

Q:この映画は坂口さんのカットで終わります。撮影では、坂口さんの前に小松さんが実際に歩いてらっしゃったそうですが、振り返っていかがでしたか?

藤井監督:あの日は小松さんが椅子を運ぼうとしてくれていて。小松さんが動くとスタッフが皆動いてくれるんですよ!僕が動いても何もないんですけど(笑)でも、あれは僕がお願いしていた訳ではなくて、“現場を見てた茉莉“としての彼女から演じてくれたような気がします。

小松さん:坂口君の、その先に茉莉がいるっていうあの表情を現場のモニターで見ていたときに、この映画が素晴らしいものになったんだなと確信してグッと感じました。ちゃんと茉莉を抱きしめて和人も進んでいくというのが、ワンシーンの中ですごく伝わってきたとても良いシーンでしたね。

坂口さん:あれは何パターンか撮りましたよね?あの最後の表情は、もうちょっと感情が溢れているものや落ち着いたのも撮ったと思います。勿論映像的には映らないけど、菜奈ちゃんがきっと生き抜いた後の茉莉として自分の目線に立ってくれていて。なんかそれを見るだけで勝手にその顔になる。和人としての正解の顔になれたというか、すごく美しいシーンだなと思いましたね。

Q:最後に、もう一度映画を観ようと思っていただいている方に向けて、感想をいただけますでしょうか。

藤井監督:もう一回観るんだったら、茉莉ちゃんに関してですが、全ての名前が全部生き物の名前になっている所を是非注目していただきたいです。茉莉ちゃんの家に飾られている花は毎旬違うんですけど、茉莉ちゃんの心情だったり願いが込められているので、そういう部分を見てもらえたな嬉しいなって思います。

坂口さん:皆のチーム力で少しずつ丁寧に作り上げたものが遂に公開して観てもらえて嬉しいですし、ずっと残り続けてくれる作品だなと思っています。この映画を見終わった後は、ふとした時に茉莉や和人の事を思い出したり、家族や友達の事を思い出したり、そのときの瞬間や一つの表情がポンと輝き続けてくれる作品だと思うので、一度観た方もまた観に来て欲しいし、色んな方にこの作品の素晴らしさを伝えて欲しいなと思います。

小松さん:一年という時間を大切に紡いできて、いっぱい思い入れもあって自慢の作品になったなと思います。皆さんがこの作品を沢山愛してくれたら嬉しいですし、末永く愛し続けてもらえたら一番私たちも幸せだなと思います。是非また何回も観てもらえたら嬉しいです。ありがとうございました。