想像を超えた寒さ!
真冬のフィンランドロケ
クランクインは、2018年2月に極寒のフィンランドで迎えられた。この時期はマイナス20度が当たり前だと言われていたが、撮影期間中はマイナス10度前後に落ち着く。とはいえ、屋外での撮影はやはり圧倒的に寒い。初日はヘルシンキから北へ70㎞にあるリーヒマキのガラス工房“LASISMI(ラシスミ)”を借りて、悠輔が美雪の前でガラス工芸を作るシーンなどを撮影。東京のガラス工房でレクチャーを受けていた登坂の手さばきは見事で、真剣な表情で作業を進めていく。「人見知り」だと言う中条に登坂が積極的に話しかける場面も多く見られ、序盤からいい空気感が流れている。このシーンでは、美雪の気持ちの大きな変化を表現したと橋本監督が説明する。「悠輔と美しい時間を重ねる中で、締めくくりとしてガラス工房へ行き、美雪は悠輔が彼の一番好きな物を作っている姿を見つめます。その時、美雪は心から愛しい者をこの世に見つけ、それを置いて死ななければいけないことに気付き、初めて本当の怖さを知ります。楽しげに微笑んでいた表情が、急にふっと翳るのですが、初日にもかかわらず、中条さんは心に響く繊細な芝居をしてくれました。」
登坂にとって最も過酷な撮影となったのは、雪の中を疾走する一連のシーン。本隊はヘルシンキから空路、レヴィへ。世界中から観光客が訪れるトナカイファームの森林の中でのロケだ。大人でも腰近くまで埋まってしまうような深い雪の中を、懸命に走り続ける登坂。時にリアルに足を取られながらも必死で走る登坂の姿を、並走するスノーモービルに載せたカメラが、横からさらに正面からとアングルを変えて捉えていく。「カメラが回っている時は平気だったんですけど、終わってみるとめちゃくちゃ寒かったです」と登坂は笑う。
後半はいよいよオーロラスポットでの撮影に突入。見渡す限りの雪原だが、実際は100m以上の幅の雄大な川の上がロケ地となる。オーロラシーンの設定は夜だが、完全なナイター撮影だと森林などフィンランドらしい風景のディテールが暗部に埋もれてしまうため、疑似夜景=“つぶし”という撮影方法が採用された。これは空の明るさがぎりぎり残る僅かな時間を狙っての撮影となるため、日中に入念なリハーサルを繰り返すことに。
ラストを飾るのは、映画のクライマックスとなる2人が再会する一連のシークエンス。撮影が可能な時間帯は日の出前後1時間と、日没前後の2時間と限られる。登坂、中条にとっては早朝から夜中まで気を緩める瞬間がないハードなスケジュールとなった。中条は「手足の感覚が無くなるくらい寒かったですが、一番感情の高まっているクライマックスだったので、何度も何度も脚本を読み返して美雪の気持ちをイメージしながら臨みました」と語る。
こうして20日近くに渡った過酷なロケは無事終了したが、実景撮影に残っていた橋本監督とカメラマンに思わぬサプライズが。一気にマイナス25度まで冷え込み、ダイヤモンドダストを撮影出来たのだ。その貴重な映像は映画の冒頭に使われている。