お話をいただいて最初の脚本を読んだ時、普段なら監督目線で読むんですが、この本は一読者として読めてすごく興奮したのを覚えています。題材がまずチャレンジングですよね。個人的にはミステリーやサスペンスをずっとやりたくて、初めて全面的に向き合えたのが一番の挑戦でした。日本の映画ってこういう題材だとエモーショナルな方向に寄せがちだけど、これならある種ドライでクールな作品が目指せるんじゃないかとも思いました。
藤原さん、伊藤さんに関しては正直ふたりが並んだ時どうなるかって最初は想像がつかなかったんです。でも初めて対峙したおふたりを見た時、これはすごい映画になるなって気がしました。僕から見るとおふたりはそれぞれアプローチの仕方は違うかもしれないけど、根本に持っている熱さは似ているなという印象。互いに譲らないところは絶対に譲らないですが、それと同じくらい柔軟性もある。そんなおふたりの化学反応を見ていて、毎日ワクワクしていました。
曾根崎は演じる人によって全く印象の変わるキャラクターだと思いますが、藤原さんはあえて抑えた芝居をしてくれています。それをあざとくやらなかった彼は、本当にクレバーな俳優だなと思いますね。初日の藤原さんの芝居を観た時「声ちっちゃ!」と思ったんですが(笑)、同時に「この男(曾根崎)は何を考えてるんだろう?」って自然と興味がわいてきました。伊藤さんは男くさくて野性的なものをずっと持っている牧村にピッタリでした。ただこれまで彼が演じてきたような正義のヒーローではなく、牧村はある種の敗北と共に生きている人。失意のどん底からずっと生き続けている男なんです。彼の今の年齢だからこそ成立したし、より魅力的に映っていると思います。
最初に脚本を読んだ時の面白さ。それを削がないように、観客が一瞬でも冷めてしまわないように、リアリティを追求することは心がけました。観終わった後は疲れるかもしれませんが、観客に何かを突き付けるような攻撃的な映画になったと思っています。