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葉加瀬太郎[ 音楽 ]

Interview

葉加瀬太郎[ 音楽 ]

── 脚本を読まれた時のご感想を教えてください。
 大変美しい話だと思いました。ピュアな青春映画というものは、人がいくつになっても心に響きますし、美雪の“覚悟をした愛”には、多くの共感が寄せられると思います。
── 脚本を読まれた段階で、メロディは浮かばれましたか?
 脚本を読んでいる時は、何かこう匂いというか、肌触りというか、そういうものをキャッチするのが、とても大切なんです。質感と言った方がわかりやすいでしょうか。物語からは、そういうものを一番キャッチしなければならない。具体的なメロディになる一つ手前ですね。頭の中で音が鳴り始めたのは試写の最中で、観終わってミーティングに突入した時には、ほぼ出来ていました。
── それは、どんな音色でしたか?
 アコースティックなサウンドでした。冷たい音色だったとしても、美雪の「人を愛し、生きていこう」というエナジーを伝えるものとして、生身の人間が演奏するアンサンブルの熱が必要なファクターだと思いました。音楽を作っていく上で、僕はいつもルールを決めます。今回は、“コンピューター禁止”でしたね。
また、フィンランドが大切な舞台になっていますので、国民的な作曲家のジャン・シベリウスの楽曲を意識しました。コードを取り入れたのではなく、彼の重厚なトーンの緯度や寒さを感じさせる“北の音”を聴いて、曲を作るきっかけにしていました。
── 監督やプロデューサーとは、どんなお話をされましたか?
 1970年代のヨーロッパの映画音楽、たとえばヘンリー・マンシーニ、ニーノ・ロータ、エンニオ・モリコーネ、僕はそういう人たちの音楽を心の底から愛しているので、そのような音楽作りをしたいとお伝えしました。
── 楽曲を基にした物語ということで、苦労された点はありましたか?
 いいえ、苦労はなかったです。「雪の華」のメロディを何とか僕のヴァイオリンで表現したいと考え、オープニングとエンディングにもってくることにしました。OKテイクはこれから撮るのですが、マーラーのシンフォニーのような響きが出せたらいいなと。大好きな映画『ベニスに死す』で使われている、マーラーの5番のようなイメージで「雪の華」を弾けたらいいなと思っています。
── 各テーマに込められた想いをお聞かせください。
 ライトモティーフというクラシカルな手法ですが、映画やテレビドラマの音楽を作る時、必ずそれぞれのキャラクターにメロディを持たせています。主人公の美雪のテーマには「LOVE FOR YOU」というタイトルをつけ、期限付きの時間の中で、ひたむきに燃える愛を儚い美しさで描くためにシンプルなメロディにしました。夢の中で踊っているようなイメージですね。
悠輔のテーマは、前半は美雪の病のことを知らないので、無邪気なイメージにしました。そこに、父親から継いだガラスを作るという頑固な職人気質の一面も出したかった。メロディをゴツゴツさせて、不器用なイメージを加えました。
── 映画の劇伴すべてを手掛けられて、いかがでしたか?
 同じ曲が調を変えテンポを変えて、何度も出てくることによって、どんどん心に積まれていき、最後にクライマックスを迎えるというのが、僕の好きな映画音楽です。作品全体を通して、徐々に心に沁みていくのが理想ですね。それは、すべての音を手掛けるからこそ初めて出来ることで、とても楽しい作業でした。
── これから映画をご覧になる方に、どこを一番観て聴いてほしいですか?
 それはもう、ラストです。間違いなく。雪の華もオーロラも、その美しさは儚さにあります。消えてなくなるから美しい。音楽も同じですね。最後のシーンに、綺麗なヴァイオリンの音をのせたいですね。

Taro Hakase

1990年、KRYZLER&KOMPANYのヴァイオリニストとしてデビュー。セリーヌ・ディオンとの共演で世界的存在となる。1996年の解散後ソロ活動開始。2002年、自身が音楽総監督を務めるレーベル“HATS”を設立。2017年8月フルアコースティックアルバム“VIOLINISM Ⅲ”をリリース。同アルバムがゴールドディスク大賞 クラシック·アルバムオブ·ザ·イヤーを受賞。生誕50周年の今年、8/1にベストアルバム「ALL TIME BEST」をリリース。9月より年末にかけて全50公演の全国ツアーを開催。ツアーファイナルは12/30日本武道館。ソロのヴァイオリニストとして初の公演となる。例年開催される全国ツアーに於いても全公演SOLD OUTとし、年間100公演にもなるステージを行いながら、様々な活動の中で音楽の素晴らしさを伝え続けている。http://hats.jp

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