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橋本光二郎[ 監督  ]

Interview

橋本光二郎[ 監督 ]

(『orange−オレンジ−』)

── 監督を引き受けられた経緯をお聞かせください。
 『orange-オレンジ-』が公開してしばらく経った頃、助監督を務めた『おくりびと』などでご一緒したプロデューサーの渡井さんから依頼をいただきました。僕の師匠である滝田洋二郎監督のスタッフで周りを固めたいと言われて、大作を手掛けてきた非常に力強いメンバーで、2人の男女にフォーカスしたラブストーリーを作ることと、企画そのものが面白いと思ったので、お引き受けしました。
── 脚本へのご感想を教えてください。
 「雪の華」という楽曲は、非常に物悲しいなと思っていたのですが、それに対する脚本家の岡田さんの答えが、悲しさを全面に押し出すストーリーではなく、前半はむしろほのぼのとした世界観で展開します。切なさの全面押しで来るよねと皆が思っているところに1回ひねって、それでいて後半は2人の気持ちが徐々に重なっていって、切なさが生まれていく。熟練の技というか、さすがだなと思いました。
── 登坂さんと中条さんの2人だからこそ、追加された台詞や演出はありましたか?
 登坂さんには、恋人をやらされるシーンは、多めにやってもらいました。たとえば、眼鏡を外したことに触れず、美雪がすねるシーン。女子のかわいく見てもらいたい気持ちと、でも男子は気付かないというすれ違い。そういうシーンを足すことで、一見怖そうな男子のダメな部分が垣間見えて、かわいいと感じたり、徐々にカッコいい顔が見えたり、お客さんが登坂広臣という役者と出会い直し、美雪と同じように彼と恋に落ちればいいなと思います。
 中条さんは、世間から少しズレた子に設定しました。恋はもちろん様々なことを諦めてきたので、この年齢なら普通は体験していることも出来ていない。悠輔を見つけて尾行したりなど、前半は子供っぽい感じにしています。そのため「100万円」のところも生っぽくなく、自然になったのではないかな。面白いところですが、リアルな金額なので。まさに悠輔が聞く、「どういうこと、これ?」ですよね。否定する登坂さんと、それに対してむくれる中条さんの芝居で、その疑問をうまく拭えたと思います。
── 映画を通して四季を意識してらっしゃいますね。
 1年という期限があるからこそ、美雪はいろんな物事を進めざるを得ません。冬に初めて出会い、タイムリミットを感じるからこそ、再会した時に勇気を振り絞り、楽しかった夏が終わってしまって秋が来て、もう本当に最後の期限である冬が来てしまう。それでも無理して、もう1回フィンランドに行きたいと決意し、それを知ったからこそ、追いかけなければと悠輔が思う。この時間の経過を、きちんと表現しなければならないと考え、季節感を出しました。
── 何か意識された作品はありますか?
 たとえばオードリー・ヘップバーン主演の『昼下りの情事』のような、往年のハリウッド映画のラブストーリーの空気感があるかもしれません。リズムの速い今の映画だけでなく、こういう映画もあるんだということは常に仕掛けておきたい。今回で言うと、フィンランドでホテルに戻ってきた2人が、自分の部屋でお互いのことを意識しながら過ごすシーン。ゆったりと流れる時間を音楽も使わないで見せています。自分が憧れた昔の映画や、助監督時代に体験した映画のよさは、どこかに残したいと思っています。

Koujirou Hashimoto

1973年生まれ、東京都出身。日本映画学校卒業後、『あ、春』(98)の相米慎二監督、『おくりびと』(08)の滝田洋二郎監督など名だたる監督に師事し、助監督として経験を積む。2010年に深夜ドラマ「BUNGO -日本文学シネマ-「冨美子の足」」で監督デビューを果たすと、繊細な感情表現と作りこまれた世界観が非常に高い評価を獲得し、一躍期待の若手監督として注目を集めた。2011年には河合勇人監督とともに演出したドラマ「鈴木先生」(TX)で、日本民間放送連盟ドラマ部門最優秀賞、ギャラクシー賞など各賞を獲得。その後、2015年に『orange-オレンジ-』で長編映画を初監督。本作は『羊と鋼の森』(18)に続き3作品目になる。

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