突然のキスは、美しくも今後の波乱を感じさせる名シーンに

物語が大きく動いていくきっかけとなる屋上でのキスシーンは、清々しい快晴に恵まれた。やや緊張した面持ちの広瀬に、いつも通り穏やかに話しかける生田。だが撮影が始まると、現場は心地よい緊張感に包まれる。手作りのウエディングドレスに学校の上履きを合わせた響が、伊藤の元にひざまずき宣誓の儀式をする一連のシークエンス。当然大事なシーンだけに、監督の演出にも熱が入る。「響は自らフラれようとしているわけだから、笑顔なんだけど…みたいなね」。「伊藤の“なんだその格好?”の言い方なんだけど、いつもの伊藤先生みたいな感じで」など、自ら2人のそばに走り寄り細やかに心情を丁寧に説明していく。懸命に自身への想いを諦めようとしている響を、切なげにわずかに苦しそうな瞳で見つめる生田のセンシティブな目線芝居。そしてたまらず抱き寄せ、突然のキスを……。脚本を読むと甘いロマンチックなシーンになるのだろうと予想していたものの、実際いきなりキスをされ腰を抜かしたようにペタンとその場に座り込む広瀬の芝居には、喜びよりも混乱や動揺のほうが大きく出ている。そしてはっと我に返ったように、その場から立ち去る伊藤の後ろ姿には、一人の男性としての苦悩や葛藤が浮かぶ。甘さと切なさ、そして今後の波乱の展開を予想させる名シーンの手応えに「今のよかった! OKです!」と監督の声が一際大きく響いた。

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