『アマデウス』(コンスタンツェ・モーツァルト) エリザベス・ベリッジ役 宮崎美子さんインタビュー

宮廷楽長アントニオ・サリエリが、天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに激しい嫉妬心を抱くさまを描き出し、第57回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞など8部門を獲得した1984年の名作『アマデウス』。2002年には20分の未公開シーンを付け加えた「ディレクターズカット版」も公開されたが、その「ディレクターズカット版」に日本語吹き替え版を加えたブルーレイの発売が10月19日に決定した。

今回は、1986年10月12日に放送されたテレビ朝日「日曜洋画劇場」版の日本語吹き替え音声をベースに、「ディレクターズカット版」で追加された吹き替え欠落部分を追加で収録。7月2日には、都内スタジオで、モーツァルトの妻コンスタンツェの声を担当した女優・宮崎美子の吹き替え収録が行われた。

アフレコを終えた宮崎は、「30年前もそうですし、今でもそうなんですが、あまりこういう吹き替えってやったことがなかったんで、吹き替えってこんな感じだったな、こんな風に細かく教えてもらいながらやったなと、30年前を思い出しましたね」と切り出しつつ、「昨日は緊張しちゃってよく眠れなかったんです。だからちょっぴり充実感があります」と笑ってみせた。

今回は、30年前の「日曜洋画劇場」版でも演出を務めた佐藤敏夫氏が今回の追加収録のために再登板したことも注目のポイントとなっている。「佐藤さんは指示が的確なので、初心者にはありがたかったです。もちろん私は、吹き替えに慣れていないですし、うまいわけでもないので、役者さんの呼吸に合わせるのは難しかった」と述べつつも、「でも、口の動きが時々スーッとうまく合わさるところがあって。それが気持ちよかったですし、この仕事は面白いなと思いましたよね」と付け加えた宮崎。

「以前にコン・リーさんの『きれいなおかあさん』(1999)という映画の吹き替えをやったことがありましたが、アテレコをやったのは前回の『アマデウス』を合わせても3回くらい」と振り返った宮崎。「ただでさえ自分はアテレコに慣れていないのに、それプラス30年という年月の壁は大きかったですね」と語る通り、30年前に収録した自分のセリフと、今回、追加で収録したセリフが違和感ないようにすることが大きなチャレンジだったという。「最初にこのお話をいただいた時は無理だろうと思いました。事務所の中でも『大丈夫か?』という声もあったんです」と笑った宮崎だったが、「でもアテレコの分量は10分くらいだとお話をうかがって、実際に台本をいただいたら、これはもう頑張るしかないなと思いました」と今回のアテレコに向き合った思いを語る。

演出の佐藤からもしばしば「今のは大人っぽかったですね」と指摘されるなど、実際に吹き替えにチャレンジしてみて、若い時と同じトーンでセリフを吹き替えることには苦労させられたという。「年を重ねるとどうしても声が低くなりますし。佐藤さんは『ちょっと大人っぽかった』と言うんですけど、そりゃ大人ですからね(笑)。だから最初のシーンは、そこの調整に時間がかかりました」と語る宮崎だったが、吹き替えを続けるうちに少しずつコツをつかんできたという。「やっていくうちに、だんだんと、ああそうかそうかと。高めの声を出しているとちょっぴり照れちゃいますけど、でもその当時はそうだったわけだから、ということがようやく分かってきた。でもちょうど吹き替えって面白いなと思ったところで終わっちゃって。またやってみたいなという思いになりましたね」。そんな宮崎にとって、当時の自分の声はどのように聞こえたのだろうか。「もちろん高いということもありますけど、声の端々にどこか切羽詰まったような感じがありますね。きっと若さってそういうことなんでしょうね。年を重ねると、どこかふてぶてしくなっているんでしょうけどね」。

「日曜洋画劇場」版は、モーツァルト役に三ツ矢雄二、サリエリ役に日下武史という実力派が競演している。「日下さんもそうですし、三ツ矢さんも本当にすごいんですよ。特に一緒のシーンが多かったのが三ツ矢さん。弾むようなモーツァルトの笑い方もそのままなので、それは邪魔しちゃいけないなという思いでした。何しろ初めてのことなんで、どのくらい声が出ているのかも分からなかった。でも今回、あらためて自分のところを観てみると、結構、頑張っていたんだなと思いました」と充実した表情。ちなみに好きなシーンは「最初の方でモーツァルトとコンスタンツェの2人が遊びまわってるところがありますよね。あそこはやっぱりすごいと思います。三ツ矢さんの艶(つや)やかな笑い声はいまだに印象に残っていますね。もちろん三ツ矢さんは30年前でもすでにすごい方だったんですが、でもあの時は若手だったんですよね。本当にすごいなと思います」。

ディレクターズカット版には、モーツァルトの妻コンスタンツェが夫の仕事の便宜を図ってもらおうとサリエリの家にやってくるも、サリエリが仕事と引き替えに彼女の身体を要求するというショッキングな場面が追加されている。その場面を「彼女は夜になって、覚悟を決めてサリエリの家にもう一回行くんですよね。あのシーンが加わったことで、彼女に対する理解がより深まったというか。子供っぽくて、家事についてもだらしないし、モーツァルトと一緒になって遊んでばかりいるような人だと思っていたから、ヴォルフィー(モーツァルト)は苦労していたのかなと思っていたんですが、実は、あんなにもけなげな、いい奥さんの面があったんだと思いましたね。あのシーンが入ったことで、より私はコンスタンツェが好きになったというか。いとしい人だと思うようになりました。いい出会いでしたね」と振り返った。

コンスタンツェを演じるのは、女優のエリザベス・ベリッジ。チャーミングな柔らかい雰囲気や顔などが、どことなく宮崎自身に重なるところもある。宮崎も「当時、なんで私を選んでくださったんだろうと思っていました。そうしたら現場でどなたかが、表面はともかく、骨格、あごが似ている人というのは、同じような声だったりするんですよと言われて。なるほど、そういうことはあるのかなと思いました」と振り返った。

「『アマデウス』は観ていましたが、まさか自分が吹き替えをやるなんて夢にも思っていませんでした。でも本当に宝物のような作品ですね。私はアテレコの経験が少ないんですが、その少ないうちの1本がこの作品だというのは本当にすごいことだし、本当にありがたいことだと思います」と語る宮崎。「180分と長い映画ですけど、観始めたらあっという間でのめり込んでしまいます。脚本もそうですが、映画としても本当にうまくできているんですよね。今回の吹き替え版で、皆さんにじっくりと楽しんでいただければと思っています」と呼びかけた。