まず、きっかけについてお聞きします。子供のころからキャスティング・ディレクターになりたかったという人はあまりいませんが、どのような経緯でこの仕事に就いたのですか?
パトリック・ラッシュ(以降、PR):僕はロサンゼルスで育ったんだが、小学校一年生のころ、いくつかCMに出演したんだ。学校の子供たちは同級生がテレビに出てるってことにあまり寛容じゃなくて、いじめられた。それで“もうやりたくない”って思って、俳優志望モードからすぐ外れたんだ(笑)。
結果的にはユニバーサル・スタジオで食品関係の仕事に就き、郵便仕分けの担当を経て、映画のプロダクション・アシスタントになり、どういう部署がどういう仕事をしてるか見られるようになったんだ。それで“キャスティングの仕事はよさそうだな。早く帰れるみたいだし(笑)。”って思った。僕はいつも俳優を見ていて、名前や役柄を覚えていた。理由はないけど、頭に入っていたんだ。
キャスティング・ディレクターを本格的に志したのはいつですか?
PR:大学を出て、何かやんなきゃって思った。 それでサリー・デニソンとジュリー・セルツァーという偉大なキャスティング・ディレクターと仕事をする機会を得た。給料は要らないといって、仕事を学ばせてもらったんだ。2週間ぐらい彼女たちの下で働き、結局8年そこで職に就いていた。彼女たちのおかげで僕は「告発の行方」や「ヘザース」、「ロボコップ」、「鬼ママを殺せ」などに携わることができ、いい経歴を持つことができた。だから幸運にも「サンフランシスコの空の下」の最初の4シーズンをキャスティングできて、やっとプロとしてやっていけるようになったんだ。
「サンフランシスコの空の下」や「ドーソンズ・クリーク」では、まだ知られていない才能を見つけるという難しい任務が課せられていましたね。その経験は「The OC」で生かせましたか? あるいは再び苦労しましたか?
PR:The OC」の脚本を読む前は、もう十代のキャスティングから逃げたくなっていた。どちらかといえば「Golden Girls」(熟年の女性たちが主人公のコメディ)を担当して、才能ある熟年の女優たちを配役して終わりって感じがよかった(笑)。
「The OC」みたいな番組のキャスティングとなると、毎年新たな才能を見つけなければならないし、1つの役柄に対して平均250人の子供たちのオーディションが必要になる。隠れた宝石を見つけるまで、ずっと探し続けなきゃならないんだ。昨年はキツかったよ。「Jack & Bobby」(後に大統領になる少年のドラマ)と「The
Mountain」(スキーリゾートを運営する家族のドラマ)も担当していたからね。毎年、新星を発掘するのはハードだよ。
同時に他の番組も手がけてるんですね。どれかの番組にそぐわなかった俳優を他の番組で使ったことはありますか?
PR:あるよ。ミーシャ・バートンが演じたマリッサの役のオーディションを受けたオリビア・ワイルドという女優だ。「The OC」の役は落ちたが、「Skin」というドラマで起用した。そのドラマでは2、3人のキャスティング・ディレクターが辞職またはクビになってね。1週間以内に誰か見つからなければ、製作自体が取り止めになるところだった。オリビア・ワイルドは個人的に気に入っていたから、オーディションに呼んで、最終的に彼女は「Skin」に出演した。面白いことに彼女は「The OC」にも重要な役で出演することになったよ。
「The OC」では、登場する長さこそまちまちですが、どんどん新たなキャラクターが現れては去っていきます。キャスティングは主にシーズンの合間に行われてるんですか? それともシーズン中も行っているんですか?
PR:例えばセカンド・シーズンは、シーズンが始まる前にジョシュ・シュワルツに新たに4人の子供たちが必要だと言われた。6話ぐらい出演してもらうことになるとね。ストーリーの流れ次第では、それらの俳優は登場し続けることになる。
ファースト・シーズンのアンナ役(サミーア・アームストロング)がそうだった。もともと彼女は1話か2話だけ登場する予定だったが、製作陣に気に入られたため、もっと長く出演することになったんだ。
では、どのキャラクターがどうなるかは、あなたには予測不能ということですか?
PR:その通り、全然わからない。視聴者の意見によっても変わるしね。アンナのように視聴者にも気に入られれば、長く出演することになる。
正直言うと、オリバーがいなくなってホッとしました。見てると腹が立って・・・
PR:おいおい(笑)。オリバー役はテイラー・ハンドリーが演じたが、彼はとてもいい子だよ。視聴者をムカつかせるのが彼の役目で、彼は見事にその役目を果たしたんだぜ(笑)?
意地悪なジュリー・クーパーを見事に演じているメリンダ・クラークは当初、完璧な母親キルスティン役のオーディションに来たというのは本当ですか?
PR:メリンダは確かにキルスティン役を受けに来た。ジュリー・クーパーの役は、パイロット版の時点でセリフが5つぐらいしかなかったんだ。サマーも同様で、セリフは5、6つぐらいだった。もちろん彼女たちはずっと登場すると分かっていたが、パイロット版では他のキャラクターを確立させなくてはならず、ジュリーとサマーは脇に追いやられていた。
僕はメリンダが気に入っていたし、ステファニー・サヴェージ(共同製作総指揮)も「Fastlane」というドラマから彼女を知っていた。でも、いかんせんジュリー役のセリフが少なかったから、彼女にはキルスティンのセリフを読んでもらった。メリンダはその時から“ジュリーのキャラクターが好きだわ”と言っていた。
他にそういうことはありましたか?
PR:アダム・ブロディはライアンの役で本読みに来た。でも次に製作者たちの前で読む時はセスの役でやってくれと言ったんだ。彼は“チノから来た不良”って感じじゃなかったからね(笑)。
アダムに関しては、セス役のオーディションで落ちる寸前だったと聞いています。脚本を無視してアドリブに走ったということですが、それは本当ですか?
PR:その時期、彼らは一日に3つのオーディションを受けてたりしたんだ。今どこの会社でどの番組のオーディションを受けているか覚えているのがやっとだった。僕らのオーディションは一番初めのシーンの3ページほどを演じてもらうものだった。
さて、アダムについてだが、彼は・・・ こう言うのが正しいかな。彼は完全に自己流に演じた(笑)。それで実際のところジョシュ・シュワルツはこう言ったんだ。“アイツは二度と見たくない。何なんだ、あれは(笑)?”
僕はアダムが面白いと思って、気に入っていた。セス役のオーディションは続いたが、まったくいい俳優が見つからずにいて、ジョシュに言ったんだ。“もう一度アダム・ブロディを見てみないかい?
今度はちゃんとセリフを覚えるよう言ってさ(笑)。”
本来は寛容なジョシュは“もう一度呼んでもいいが、絶対に脚本通りに読ませろよ”とオーケーを出した。彼をもう一度呼ぶのに、すごく時間がかかったよ。そしてその後は知っての通りさ。
現実味を考慮するとキャストを選ぶのは難しくないですか? 実物の人間が架空のキャラクターに見合うかどうか判断するなんて・・・
PR:ある特定のキャラクターの構想を製作者たちに聞いて、できるだけすべての要素を兼ね備えた俳優を見つけるのが目標なんだ。でも彼らの望み通りの俳優が見つからなかった場合は、その役柄の素質をすべて取り込むことができる優れた俳優を探し出す。例えばルックスがよくて長身の俳優がいたとしても、役柄の要素がゼロなら使えない。
僕が俳優を見るのは事前のオーディションの時で、そこで“いい”と思った俳優をもう一度呼んで、製作者たちの前で本読みをしてもらう。そこで役を得られるかどうかは俳優次第だ。製作者たちの心をつかむか、そのキャラクターへのイメージをくつがえすほどの個性を発揮するかで決まるんだ。
パイロット版のために主要なキャストをそろえるのに、どのくらいの期間を費やすんですか?
PR:だいたい予定されている撮影開始日の8〜10週間前からオーディションをする。だから初めの4週間で主要キャストの3、4人が決まっていることが望ましいね。「The OC」ではサンディ役のピーター・ギャラガーとマリッサ役のミーシャ・バートンが初めに決まった。その後、ライアン役のベンジャミン・マッケンジーとキルスティン役のケリー・ローワンって流れだったね。
ベンジャミンとアダムは俳優としての経験がまだ浅い状態でした。そういった俳優たちがブレイクの機会を得るのは難しいものです。俳優の経歴はどのくらい考慮しますか?
PR:長年パイロット用に新しい才能を探し続けてきたが、僕の仕事は“潜在能力”を見抜くことだと思ってる。「The OC」のように若い登場人物の多いドラマでは、経歴で判断しない。できないんだ。そのぐらいの年代の俳優の経歴といえば、高校時代や大学時代の演劇ぐらい。アダムは「Gilmore Girls」に何話か出演していて、ベンジャミンは「犯罪捜査官ネイビーファイル」にゲスト出演した経歴があったが、特に目を引くものではない。
「The OC」の主要キャストは見事に定着しましたね。この人気ドラマに新たに加わる俳優に必要な要素とは?
PR:「The OC」の好きなところは、ユーモアがあることだ。「サンフランシスコの空の下」も好きだったが、あまりユーモアはなく、「The OC」のようなキレのいいやり取りも少なかった。「The OC」がヒットしたのは、コミカルなところがたくさんあって、シリアスすぎないからだと思う。
だから、このバランスのとれたキャスト陣にうまく入り込める俳優というのが条件だね。コミカルなセリフをうまく処理できて、セスを演じるアダムに対して笑わずに演技できるかどうかだ。僕らが探してるのは、ドラマの人気に圧倒されずに、今のキャストに溶け込める魅力的な俳優だね。
キャスティングするうえで、あなたの第一印象はだいたい当たりますか?
PR:面白いね。ジョシュがインタビューでこんなことを言っていたよ。“パトリックが役に合ってると言った俳優は必ず出演することになる”と。そんな簡単にはいかなかったけどな(笑)。でも自分の感覚や考えに頼らなければ僕の仕事はできない。今まで選んできた若者たちがちゃんと成長してくれて、とてもラッキーだったと思ってる。
多くの若い俳優はブロードウェイで演技を磨いてきたりしていない。だから僕はただ彼らが何らかの希望や見込みや潜在能力を持ち合わせているよう願い、選ぶまでさ。僕がいいと思った俳優が落とされた場合、僕は“もう一度チャンスをあげてくれ”って言う。それが僕の仕事なんだ。