原作の連載終了から2年近く経って、なぜこのタイミングで実写映画化となったのか。当初ハリウッドでの実写映画化(!)が報じられ世間を賑わせたが、企画は頓挫。映像化権を取得していたワーナー・ブラザース映画本社から、実写映画『るろうに剣心』を大ヒットさせていたエグゼクティブプロデューサー・小岩井宏悦(以下、小岩井P)に「邦画として作ってみないか」と声がかかり、満を持して日本での映画化が実現した。
死神や虚(ホロウ)、尸魂界(ソウル・ソサエティ)といった複雑な世界観を、どう映像で表現するかということが最初の課題だったと小岩井Pは振り返る。しかしより重要なのは、限られた尺で、一大叙事詩の中の誰と誰のどんな話を語るべきなのか。「一護とルキアのラブストーリーでは原作から逸脱してしまう。我々の選択は“一護とルキアの友情”にすることでした」(小岩井P)。
次に考えることは、74巻に及ぶ原作からどのエピソードを選び、どんなカタルシスを観客にもたらすのか。「ターゲットの10〜20代に感情移入させるには、“これは君たちの物語だ”と認識してもらう必要があった。人気が高い“尸魂界篇”はファンタジー感が強く、最初の物語としては設定の説明が複雑でハードルが高い。そこで、高校生の日常からファンタジーの世界に入って行ける“死神代行篇”を描くことにしました」(小岩井P)。
しかし、大きな問題もあった。“死神代行篇”は、少年漫画によくある主人公が敵に勝利して終わるという単純な話ではない。勝利感がないまま、果たしてカタルシスが生まれるだろうか。何度も脚本を手直しするうちに、だからこそ予定調和ではない、新しいエンディングが作り出せると気づいたという。「物語は普通の筋書きから外れた時に面白くなる。今回のバトルの終わり方と一護の気持ちの在りようが新たな発明であり、この映画の個性になったと思います」(小岩井P)。
映像化にあたり、小岩井Pが迷わずオファーしたのが、数々の漫画原作の実写映画をヒットさせている佐藤信介監督だった。「CGを使ったアクションエンターテインメントを派手に描きつつ、感情移入できる人間ドラマに仕上げる佐藤監督の手腕に絶大な信頼をおいている。この映画は彼でなければここまでのクオリティにならなかったと思います」(小岩井P)。 原作者の久保帯人も映像の出来栄えに満足しているという。「シナリオのやり取りはしていましたが、映像となるとまた別物。初号試写で初めて久保先生にご覧いただいた時はかなり緊張しましたが、本当に喜んでいただいて心からホッとしました」(小岩井P)。